第1回 要旨:
スマートフォンやソーシャルメディアの普及によって、企業と消費者がシームレスにつながるようになった今日。多様な顧客接点で、ひとりひとりのお客さまに魅力的な顧客体験(ユーザーエクスペリエンス)を提供していくために、非対面顧客接点の要であるコンタクトセンターはどのように貢献できるのでしょうか。本連載では全5回に渡り、弊社ビジネスインキュベーション&コンサルティング部ゼネラルマネジャーである藤村と共に、次世代コンタクトセンターの描き方を考えます。
- まずは藤村さんの現在の業務内容について、教えて下さい。
コンサルタントとして、主にコンタクトセンター領域を中心に、企業の非対面営業・マーケティングの支援をしています。
藤村 将宏 | MASAHIRO FUJIMURA
バーチャレクス・コンサルティング株式会社 ビジネスインキュベーション&コンサルティング部 ゼネラルマネジャー
- 企業は今、コンタクトセンターにどのような機能を求めているのでしょうか。
規模や業種によって異なるので一概には言えませんが、多くの企業は今、単なる問い合わせ対応や営業コールにとどまらない「プラスアルファの顧客サービス」を提供したいと考えているように感じます。
具体的には、お客さまとの電話をただ機械的にさばいていくのではなく、いかに魅力的な顧客体験(ユーザーエクスペリエンス)を提供するか。また、コンタクトセンターで蓄積した顧客情報を、ウェブや対面営業など他の顧客接点でどう活用するか。多くの企業では今、そういったことがテーマになっています。
- そうした「プラスアルファの顧客サービス」を提供するためには、どのようなことが重要なのでしょうか。
まず認識すべきことは、経営層と現場のコンタクトセンター運営層それぞれで、興味関心が全く異なる場合が多い、ということです。
「プラスアルファの顧客サービスを提供したい」というのは、基本的に経営層の意向、興味関心の領域です。一方の現場、コンタクトセンター運営層は、そういった必要性を理解はしていても、日々の業務運営や定常的改善に忙しく、そこまで手が回らないというのが実情です。この両者のギャップを理解・認識した上で、コンタクトセンターで働く大量の人たちを経営者が期待するような高いレベルで機能させる運営の仕組み・枠組みを構築することが重要です。
コンタクトセンターで働くオペレータの多くは「電話をたくさんとる」「丁寧に受け答えをする」「ミスをしない」といったことを意識した、いわば「人間FAQ」のような、マニュアル的な働き方が中心です。この要因のひとつは、コンタクトセンターで用いられているKPIの多くが「受電率」や「通話時間」など、いわば「オペレータに頑張ってもらう」ための指標として設計されていることです。
例えば、アマゾンに買収されたことで一躍注目を集めた米ザッポス社は、徹底して「顧客が満足したかどうか」一点を追求すべく、そのための指標を設けているようです。その達成のためであれば、従来の指標を無視するくらいのい意志でセンターを作り替える、といった方法も考えられます。ザッポス社の例は少し極端ですが、日本でも近年は外資系のアウトソーサーを中心に、企業目線・現場目線のセンター運営から、顧客目線のセンター運営への転換が進みつつあるというのも事実です。なお最近は、応対中の声質等から顧客の満足度を自動的に取得できるような技術も出てきています。こうした技術も活用するなどして、真なる顧客満足度を測っていくことが重要です。
なお、いかなるKPIを設けていても、多くのコンタクトセンターでは「一応見ている」程度になってしまっているのが現実です。出てきた指標に基づいてオペレーションを改善して検証して......といったPDCAの循環がしっかりできているケースは少ないと感じます。KPIそのものを改めて設定するだけでなく、それをどう評価して、どう改善していくのか、といったオペレーションの設計もあわせて実施しないと完全に片手落ちと言えます。
- では、改めて、コンタクトセンターでプラスアルファの顧客サービスを提供する意味、企業にとってのメリットとは何でしょうか。
端的に言うと、顧客がその企業を贔屓にし、ファン化してくれる可能性が高まるということです。
昨今のビジネスニーズとして、顧客生涯価値(Life Time Value=LTV)の最大化というものがあり、コンタクトセンターはそれに貢献する重要な組織機能として生まれ変わるチャンスがあります。これは、コンタクトセンターに必ずついて回る「脱コストセンター化」「プロフィット化」という課題解決につながり得るということでもあります。
もっとも近年は、単にプロフィット化を目指すということは重要ではなくなっている印象も受けます。というのも、やや各論になりますが、そもそもコンタクトセンターの利益貢献度を正確に測ることが難しい、という問題があるからです。
アウトバウンドでセールスを行うセンターであれば、たとえば「成約率」など、コンバージョンに向けたわかりやすい指標があります。しかし、インバウンドの問い合わせ対応などの場合は、たとえ売上が伸びたとしても、それにコンタクトセンターがどの程度寄与しているかを算出することは難しい。それは広告のおかげなのかもしれないし、商品のおかげなのかもしれない。それ故、利益貢献度がわかりにくいのです。
加えて、そもそもコンタクトセンターへの問い合わせを減らしていくことも重要です。「電話をかけるのは面倒くさい」「IVR(自動音声)は嫌だ」という時代の中で、電話をかけなくても必要な情報が得られる、という状態をいかに作っていくか。ウェブサイトのFAQなどもある中、わざわざ電話をかけるお客さまの多くは、WEBで調べてもわからない「かゆいところに手が届く」情報を求めていたり、あるいは「何がわからないかがわからない」という状態であったりします。お客さまの生の声に接するコンタクトセンターは、こうしたお客さまの課題に答えていかなければいけません。
- 顧客接点が多様化する中で、コンタクトセンターは必ずしもプロフィット化を目指すのではなく、あくまでも企業全体としての顧客満足度向上に貢献することが重要なのですね。
昔ながらの「コストセンターかプロフィットセンターか」という話も含め、次世代コンタクトセンターに関する議論は「これが答えだ!」と一言でいえるような単純なものではありません。ただ、多くの企業にとってコンタクトセンターは今後、プラスアルファの顧客サービスを提供する存在、そしてお客さまにとって「かゆいところに手が届く」情報を提供する存在になっていく必要があると思います。
・自社にとっての「プラスアルファ」は何なのか。
・自社顧客にとっての「かゆいところ」はどこなのか。
・それに対して、何をどのように提供していくべきなのか。
・企業全体として、どのように顧客と向き合っていくべきなのか。
次世代コンタクトセンターをデザインしていく上では、それぞれの企業がこうしたことを改めて考えることが、極めて重要なのです。
(第2回へ)