この記事は、Amazon Connectの基本機能を紹介するシリーズです。
Amazon Connectは2025年3月18日に「次世代の Amazon Connect」を発表しました。AI機能の充実により、顧客対応の効率化や、オペレーター向けの顧客対応の支援機能が強化されています。今回は生成AIをAmazon Connectで利用できる注目機能「Amazon Q in Connect」の数ある機能の中から、質問への自動回答機能についてご紹介します。
なお、記事の末尾にはAmazon Q in Connectの機能一覧を載せました。最初に機能一覧を確認したい方はそちらからご覧ください。
第1回の記事「質問への自動回答」機能の紹介はこちら
第2回の記事「ナレッジのリアルタイムレコメンド」機能の紹介はこちら
※この記事ではAmazon Connectの管理画面から設定できる内容をお伝えします。
他のAWSサービスやサードパーティのアプリケーションとの統合については扱いません。予めご了承ください。
※画面キャプチャの赤枠や赤文字の書き込みは弊社による注釈です。実際のAmazon Connectの画面には表示されません。
目次
応用編2 新規FAQの下書きをAmazon Q in Connectで作成する
Amazon Q in Connectを利用開始する前に(注意点)
Amazon Q in Connectとは
Amazon Q in Connect(アマゾン・キュー・イン・コネクト)は、AWSが提供するクラウド型コンタクトセンターサービス「Amazon Connect」に組み込まれた、生成AIアシスタントです。このツールは、オペレーターの顧客対応業務をサポートするために作られました。
主な機能:
- リアルタイムのサポート:オペレーターが電話で顧客と話している最中に、その会話の内容を理解し、関連するナレッジ(マニュアルやFAQなど)を自動で表示します。
- 質問への自動回答:オペレーターがAmazon Q in Connectに質問すると、ドキュメントを調べてすぐに答えを教えてくれます。
- 作業の効率化:顧客との会話が終了した後の作業も、チャット形式での情報検索により、スムーズに作業することができます。
つまり、Amazon Q in Connectは、生成AIがオペレーターひとりひとりのそばにいて、必要なときにすぐに助けてくれる、相棒のようなツールです。難しい操作は必要なく、話しかけるだけで必要な情報を教えてくれるので、オペレーターにとってとてもわかりやすいことが強みです。
オペレーター向けチャットボット機能
機能の概要
オペレーターがエージェントワークスペース(Amazon Connectで顧客応対をする際に利用するツール)の中のAmazon Qのパネルに質問を記入すると、ナレッジベースに記載されているコンテンツを踏まえてAIが質問に回答します。ナレッジベースに回答が載っていない質問に対しては、答えられないという趣旨で返信します。
チャットボットが動作するためのAIプロンプトは初めからAmazon Connectに用意されているため、Amazon Q in Connectを有効化してすぐに利用することができます。SVにチャットで質問するような感覚でAIに質問ができるので、オペレーターにとって利便性が高いです。
設定方法
1.Amazon Q in Connectの有効化
Amazon Q in Connectは初期状態では無効になっているので、公式ドキュメントの手順に従って有効化します。
2.日本語のAIエージェントを作成
初期状態では言語設定が英語になっているので、日本語のAIエージェントを作成します。
AIエージェントの作成画面で、Agent typeはMANUAL_SEARCH(手動検索)、ロケールはJapaneseを選択します。
AIエージェントを作成できたら、デフォルトに設定します。
その後、他のAmazon Q in Connectの機能を利用するときと同様に、Amazon Q in Connectを利用するユーザーに適切な権限(Amazon Connectの権限設定である「セキュリティプロファイル」の関連項目)を付与してください。
基本的な使い方
1.エージェントワークスペースを開く
Amazon Connectにログインし、エージェントワークスペースを開きます。
2.AIに質問する
Amazon Q in Connectのパネルの最下部のチャットに質問文を書き込みます。(500文字まで)
3.回答が生成される
Amazon Q in Connectが回答します。
答えられない質問に対しては答えられないと断ります。ナレッジベースに該当する情報がない場合や、倫理的な問題を含む入力(ヘイトなど)、プロンプト攻撃などの危険な入力に対してこのような回答が発生します。
この例では、AWSの公式ドキュメント「ユーザーガイド AWS セットアップ」をナレッジベースとして設定し、AWSの初期設定について質問ができるチャットボットを作成しています。
このチャットボットにいくつかの質問をして、日本語の設定だけでどの程度の回答ができるのか、動作確認をしてみました。
質問 |
AIの回答 |
解説 |
【ナレッジに回答がある質問】 IAMアイデンティティセンターにアクセスする方法を教えて |
IAMアイデンティティセンターユーザーは、AWSアクセスポータルからサインインします。アクセスポータルのURLは管理者またはヘルプデスクから提供されます。 新規ユーザーの場合、AWSアカウントのEメールアドレスに参加招待が送信され、その招待メールに特定のサインインURLが含まれています。 重要:AWSマネジメントコンソールからは直接サインインできません。必ずAWSアクセスポータルの特定のサインインURLを使用する必要があります。後で簡単にアクセスできるよう、このURLをブックマークしておくことをお勧めします。 |
具体的な回答ができており、内容もナレッジベースに即しています。 |
【ナレッジに回答がある、長い質問】 AWSアカウントにルートユーザーとしてログインしたいのですが、ログインページにIAMユーザーの情報が表示されています。ルートユーザーとしてログインする方法はありますか。 |
はい、ルートユーザーとしてログインする方法があります。IAMユーザーのサインインページが表示されている場合は、「ルートユーザーのEメールでサインイン」を選択してメインのサインインページに戻ることができます。その後、以下の手順でログインできます: 1. 「ルートユーザー」を選択 2. AWSアカウントに関連付けられているEメールアドレスを入力 3. 「次へ」を選択 4. 必要に応じてセキュリティチェックを完了 5. パスワードを入力して「サインイン」を選択 |
具体的な回答ができており、内容もナレッジベースに即しています。 |
【ナレッジに回答がない質問】 猫は牛乳を飲みますか? |
Sorry, I am unable to assist you with this request. |
ナレッジに関連しない質問は、ChatGPTのような柔軟な返答ではなく答えられない趣旨の返事が返ってきました。 |
【一般的な会話】 おはようございます。今日は暑いですね。 |
Sorry, I am unable to assist you with this request. |
一般的なあいさつに対しても答えられない趣旨の返事が返ってきました。 同じAmazon Q in Connectのボットでも、顧客向けのチャットボットでは「こんにちは。本日はどのようなご用件でしょうか?」といった返事で質問を促すので、プロンプトの内容が顧客向けとオペレーター向けで異なる可能性があります。 |
【行動の指示】 ここまでの会話内容を要約して |
AWSアカウントのセットアップと管理に関する主要な情報が説明されています。主な内容として: 1. AWSアカウントは、リソースのコンテナとセキュリティ境界として機能します。 2. アカウント作成時の重要な要件: - Eメールアドレス(アカウントの回復に必要) - 電話番号(アカウント所有権の確認用) - 多要素認証(MFA)デバイス - サポートプラン 3. IAM Identity Centerを使用した管理ユーザーの作成と設定方法が詳しく説明されています。 4. セキュリティのベストプラクティスとして、日常的なタスクにはルートユーザーを使用せず、適切な権限を持つ管理ユーザーを作成することが推奨されています。 |
要約らしいことをしていますが、残念ながらオペレーターとチャットボットの会話を要約するのでなく、ナレッジの要約を提供しているように見受けられます。ナレッジベースを参照して回答する以外のタスクは実行できないようです。 |
特徴
【良い点】
◎オペレーターへのメリット
- 数秒で回答が生成されるので、ドキュメントを自分で調べるよりも早く回答を得ることができます。 ※今回の動作確認はコンテンツ(PDF)は1件で、短い質問文でのテストでしたので、複数のコンテンツがある場合や質問文が長い場合は別途事前確認が必要です。
- 顧客応対中もオフライン中も利用することができるので、まとめて応対履歴登録をしているときの情報検索などにも使うことができます。
◎管理者へのメリット
- Amazon Q in Connectの設定とロケール設定をすればすぐに利用を開始できます。
【注意点】
- ナレッジベースとして登録する情報がPDFの場合、ソースのリンクはPDFそのものになります。該当の記載がある場所をワンクリックで開ける仕様にはなっていませんでした。
- ナレッジベースに回答が無い場合などに表示される、答えられないという趣旨の文章は英語です。デフォルトのAIプロンプトの中にはこの「Sorry, I am~」の文言を返すように指定する箇所が見つからなかったので、この文言を日本語化するには何らかの工夫が必要です。
オペレーター向けチャットボット機能の中心的な説明は以上ですが、応用的な使い方を2通り掲載します。
応用編1 ステップバイステップガイドをAIの回答に含める
質問に対する回答を生成した際に、Amazon Connectのステップバイステップガイド(オペレーターに参照してほしい画面や記入してほしいフォームなどを事前に作成し、顧客対応中に表示する機能)へのリンクを表示することができます。
例えば下記のような使い方ができます。必要に応じて追加設定を行ってください。
・特定の問い合わせの場合に使うツールが複数あるので、ツールへのリンクをまとめた画面を表示する
・顧客にヒアリングするべき項目をフォーム形式でまとめておき、対応中に書き込めるようにする
追加設定の内容は公式ドキュメントを参照してください。
上記の設定手順には、AWS CLI(コマンドラインによるAWSの諸機能の操作)が含まれます。
応用編2 新規FAQの下書きをAmazon Q in Connectで作成する
Amazon Q in Connectが、特定のナレッジベースを紐づけたAmazon Bedrock上で動作する生成AIであることを活用して、ナレッジに関連するFAQを作成します。(「このような使い方もできる」という一例です。AWSの公式ドキュメントには記載されておりません。)
Amazon Q in Connectに「ナレッジベースの内容を基に、20件のFAQの質問と回答を生成して」と質問を書き込むと、ナレッジベースに即した内容のFAQが作成されます。この内容を一次案として、FAQの検討をします。
なお、Amazon Q in Connectで作成できるのはFAQの本文のみであり、生成したFAQを登録するシステムはありません。
Amazon Q in Connectを利用開始する前に(注意点)
3記事にわたって、Amazon Q in Connectのご紹介をしてきました。たくさんの先進的な機能が利用できるAmazon Q in Connectを試してみたいと思われた方が多いかと思いますが、利用開始前に以下の点に注意してください。
- AIガードレールは日本語に未対応
有害なコンテンツのブロックはAIガードレール(AIが不適切な出力や行動をしないようにするための仕組みや設定)を利用することが常套手段ですが、Amazon Q in ConnectのAIガードレールは、2025年7月現在、日本語に未対応です。代替手段として、AIプロンプトに次のような指示を含めることで制御することを検討してください。AIプロンプトによる制御はAIガードレールによる制御よりも堅牢さや中央管理のしやすさに欠けますが、現状でできる代替手段としては有効なものです。(例)常に丁寧かつプロフェッショナルな態度で話してください。
決して嘘をつかないでください。
決して攻撃的または有害な言葉を使用しないでください。
- 個人情報や機密情報の取り扱いルールを事前に定めておく
Amazon Q in Connectは、オペレーターや顧客の入力内容を直接モデルのトレーニングに使用することはありませんが、ナレッジとして登録する文書に個人情報や機密情報が含まれていないかの確認は運用者が気を付ける必要があります。また、生成AIの回答に個人情報や機密情報が含まれてしまった場合のAmazon Q in Connectのふるまいについては事前に確認して、AIプロンプトの調整などを行う必要があります。
- ログを取得する設定をする
トラブル発生時に通常時のログと比較して原因の仮説を立てたり、AWSサポートに問い合わせる際のリソースになるため、CloudWatch Logsを活用したログの取得をおすすめします。CloudWatch Logsは、AWS環境におけるログデータの収集、監視、分析を行うためのAWSのサービスです。
参考:CloudWatch Logs を使用して Amazon Q in Connect をモニタリングする
まとめ
今回はAmazon Connectの基本機能のひとつである、Amazon Q in Connectの「オペレーター向けチャットボット」機能をご紹介しました。Amazon Q in Connectの利用設定だけで生成AIツールを簡単に導入できることがAmazon Connectの強みと言えます。なお、実際の導入の前には最後に注意点として挙げたポイントをご確認ください。
今後もAmazon Connectの機能紹介記事を発行しますので、更新通知を受け取りたい方は弊社のメールマガジンをぜひご登録ください。
弊社ではAmazon Connectの導入もご支援しております。お気軽にお問い合わせください。
機能一覧
AWS公式の管理者ガイドを参考に作成した、利用者別のAmazon Q in Connect機能一覧です。
顧客向けの機能(チャットボット・ボイスボット)
機能 |
概要 |
質問への自動回答(AIエージェント) |
顧客が自然言語やキーワードで質問すると、AIが事前に登録したナレッジ(文書やウェブサイト、Salesforceなどの外部ツール)を検索し、回答を生成します。電話・チャットで利用できます。 第1回の記事で詳しく解説しています。 |
オペレーターへのエスカレーション |
顧客の「担当者と話したい」「オペレーターに代わって」といった発言を認識し、オペレーターに自動的にエスカレーション(通話やチャットを転送)します。電話・チャットで利用できます。 顧客(画面左)が「オペレーターと話したい」とチャットに書き込み、オペレーター(画面右)にエスカレーションした様子 |
自然言語での会話 |
顧客の入力に特定の質問意図がない場合、AIが簡単な対話を行いつつ、「~~についてのご質問がありましたらお気軽にご入力ください」などの文言で質問の入力を促します。電話・チャットで利用できます。 AIが質問に答えつつ、質問の入力を促す様子 |
オペレーター向けの機能(応対支援)
機能 | 概要 |
顧客の問い合わせ意図検出 |
顧客とオペレーターの会話を認識し、インテント(問い合わせの意図)を自動的に検出し、表示します。会話が1往復から2往復すると認識され、エージェントワークスペース(Amazon Connectで顧客応対をする際に利用するツール)のQ in Connectのウィンドウにインテントを表示します。電話・チャットで利用できます。 顧客の「ルートユーザーについて教えてください」という質問に対してインテントを表示する様子 |
ナレッジのリアルタイムレコメンド |
問い合わせ意図の検出後、オペレーターのクリック操作に応じてエージェントワークスペースにナレッジの要点を表示したり、情報ソースへのリンクを表示したりします。電話・チャットで利用できます。 第2回の記事で詳しく解説しています。 |
アクションの推奨(AIエージェント)※ |
ナレッジのリアルタイムレコメンドに、関連するステップバイステップガイド(顧客対応中に、参照するべき資料や実行すべきタスクを表示する画面)を開くボタンを表示できます。電話・チャットで利用できます。設定はAmazon Connect管理コンソール以外にAWS コマンドラインインターフェース(AWSの各種機能をコマンドラインで操作するツール)を利用する必要があります。 事前に以下の準備が必要です。 ・Q in Connectを有効化する ・ナレッジベース、コンテンツを登録する ・ステップバイステップガイドのビューを作成する ・ステップバイステップガイドを表示するためのフローを作成する 表示されたリアルタイムレコメンドからステップバイステップガイドを開く様子 |
オペレーター向けチャットボット(AIエージェント) |
オペレーターがエージェントワークスペースでAmazon Q in Connectに質問を入力すると、ナレッジベースの内容を参考にしてAIが回答を提示します。エージェントワークスペースを開けばいつでも利用できます。 |
管理者向け・その他の機能(Q in Connectの管理)
機能 | 概要 |
プロンプトのカスタマイズ |
AIエージェント向けの複数のプロンプト(ナレッジベース検索/インテントへのラベリング/検索クエリ生成/回答生成 など)をAmazon Connectの管理画面でカスタマイズすることができます。東京リージョンのインスタンスで利用できます。 |
ガードレールのカスタマイズ |
AIの回答生成におけるガードレール(システム設定のような回答生成のルール)をAmazon Connectの管理画面でカスタマイズすることができます。AIによる問題発言や、悪意あるユーザーのプロンプト攻撃などの有害なコンテンツに対するフィルタリング、個人情報のブロックやマスキング、AIの回答が情報源に紐づいているかどうかのチェックなどができます。2025年7月現在、日本語には対応していません。 |
言語設定 |
AIエージェントの「回答の推奨」「手動検索」の言語設定ができます。日本語の設定ができます。 |
バージョン管理 |
AIエージェント、AIプロンプト、AIガードレールのバージョン管理ができます。 AIエージェントとAIプロンプトは別々にバージョン管理することができます。 新規作成でバージョン1、以後、編集するごとに自動的にバージョンが作成されます。 |
カスタムデータの追加 ※ |
オペレーターがAmazon Q in Connectを利用していて、セッション中にAIが外部のデータを検索する必要がある場合などで活用する機能です。AIの回答に外部のデータを追加することで、会話の内容に即した回答を生成することができます。 (例)問い合わせ対応中に製品データベースをクエリして結果を含めた回答をする。 |
※ Amazon Connectの管理画面での設定以外に、AWS コマンドラインインターフェースを利用する必要があります。AWS コマンドラインインターフェースとは、キーボード入力(コマンドライン)を利用してAWSの各種サービスを操作する仕組みです。
バーチャレクスでは、Amazon Connectの導入支援や、AWS基盤活用のコールセンターシステムクラウドサービス「Connectrek」の開発・提供を行っています。
執筆者紹介

プロダクトエンジニアリング&サービス部