この記事は、Amazon Connectの基本機能を紹介するシリーズです。
Amazon Connectは2025年3月18日に「次世代の Amazon Connect」を発表しました。AI機能の充実により、顧客対応の効率化や、オペレーター向けの顧客対応の支援機能が強化されています。今回は通話音声の文字起こし、文字起こしデータの検索・分析機能などを持つ「Amazon Connect Contact Lens(アマゾンコネクト コンタクトレンズ:以下、 Contact Lensと表記)について、2025年7月時点の基本機能をご紹介します。
なお、記事の末尾にはContact Lensの機能一覧を載せました。最初に機能一覧を確認したい方は、そちらをご覧ください。
第1回:声をデータに。Amazon Connect Contact Lensのオペレーター業務支援3機能
第2回:Contact Lensで進化するSV向けモニタリング機能
第3回:SV業務をスマートに。Contact Lensのレポート・評価系機能
第4回:SV・管理者の業務を支援。Contact Lensの裏方的機能 (本記事)
※この記事ではAmazon Connectの管理画面から設定できる内容をお伝えします。他のAWSサービスやサードパーティのアプリケーションとの統合については扱いません。予めご了承ください。
※画面キャプチャ画像内の赤枠や赤文字の書き込みは弊社による注釈です。実際のAmazon Connectの画面には表示されません。
目次
Amazon Connect Contact Lensとは
Amazon Connect Contact Lensは、Amazon Connectに標準で組み込まれたAIベースの通話分析機能です。通話やチャットの内容をリアルタイムまたは通話終了後に自動で文字起こしし、感情分析/キーワード検出/傾向の可視化などを通じて、対応品質や顧客満足度の向上を支援します。
特に注目すべきは、高度な感情分析とリアルタイムモニタリング機能が、追加開発なしにすぐに利用可能である点です。国内で利用されている多くのテレフォニーシステムは、感情や会話傾向まで自動で解析するには別途ツール連携やカスタマイズが必要なケースが少なくありませんが、Amazon ConnectではContact Lensの機能として標準対応しているため、そういった外部ツールとの連携設定が不要です。
また、Contact Lensでは音声認識だけでなく、会話全体の文脈を踏まえたインサイト提供(例:顧客の不満兆候やオペレーターの応対品質の低下)まで自動化されており、スーパーバイザーによるモニタリング・レポート作成にも直結するのが大きな特長です。Amazon Connectの画面を操作して簡単な設定をするだけで利用できる利便性も、クラウド時代のコンタクトセンターにマッチしています。
Contact Lensの画面の例
SV・管理者向け業務支援機能
1:音声認識におけるカスタム語彙登録
https://docs.aws.amazon.com/ja_jp/connect/latest/adminguide/add-custom-vocabulary.html
概要
固有名詞や省略語などをカスタム語彙として個別登録することで、文字起こし精度を向上できます。文字起こし結果に正確な記録が求められる業務や、文字起こし結果を分析する業務の効率を高めます。
基本的な使い方
カスタム語彙は、例えば下記のような使い方ができます。
- 「ユニバ」と発話された短縮表現を、「ユニバーサルスタジオジャパン」と正しい表現で文字起こしする。
- 「バーチャレクス」という単語の実際の誤認識結果「バーチャルレックス」などを「バーチャレクス」と文字起こしする。
ここでは、短縮表現を正しい表現で文字起こしすることを例に説明します。
1.カスタム語彙のファイルを作成する
Phrase(読み取り対象の言葉)とDisplayAs(表示させたい文字列)を定義します。IPAやSoundsLikeは使用しないため、空欄にします。
TAB区切りでファイルを作成します。改行コードはLF、文字コードはUTF-8とします。
ファイルの作成例
2.Amazon Connectにアップロードする
管理画面の「Contact Lens > カスタム語彙」から言語(日本語など)を選択して、作成済みファイルをアップロードします。(画面イメージは割愛します)
3.状態を確認して有効化する
アップロード完了後、状態が「準備完了」になっていれば登録成功です。自動的に新しい通話から適用されます。
4.コンタクト詳細で変換結果を確認する
登録された語彙が反映された場合、コンタクト詳細画面のトランスクリプトにて、変換済みの表記が確認できます。
変換結果の表示画面
良い点
- 頻出する略語や企業名などを登録することで、誤った文字起こしを減らすことができ、会話記録の信頼性が向上します。
- 日本語環境でも使用可能であり、簡易なファイルで設定できるため、導入しやすいです。
注意点
- 登録するファイルは1ファイルまでです。
- カスタム語彙を後から登録しても、それ以前に文字起こしされた通話には反映されません。適用は新規の通話からのみです。
2:コンタクトテーマの自動検出(日本語未対応)
https://docs.aws.amazon.com/ja_jp/connect/latest/adminguide/use-theme-detection.html
概要
多数のコンタクトを分析し、共通の問題(テーマ)を自動的に抽出・分類する機能です。問い合わせの傾向や新たなトピックを可視化できるので、IVR改善やオペレーター教育といった用途に使いやすいデータが得られます。なお、2025年7月時点では日本語に対応していません。
基本的な使い方
1.コンタクト検索画面を開く
Amazon Connectの「コンタクト検索」で対象とするコンタクトを絞り込みます。(この操作の画面イメージなどは割愛します)
2.テーマレポートを生成する
「Generate themes report *1」ボタンをクリックし、テーマ分析を実行します。(画面イメージは割愛します)
*1:Contact Lensによって問題(例:予約のキャンセル/注文の遅延)が検出されたコンタクトが300件以上ある場合、「Generate themes report」ボタンが表示されます。
3.テーマレポートを確認する
テーマレポートリンクをクリックし、関連するコンタクトの一覧とテーマレポートの説明を表示します。
任意のテーマラベルをクリックすると、特定のテーマに関連する通話だけを絞り込んで表示できます。
テーマレポートの画面
画像出典:Amazon Connect でテーマ検出Contact Lensを使用して問い合わせの問題を検出する
良い点
- 明示的なタグ付け作業をしなくても、共通の課題を含む通話を自動でグルーピングしてくれるため、顧客ニーズやシステム課題の把握が容易になります。検出されたテーマをもとに、問い合わせ選択肢の見直しや、オペレーターの対応改善ができるため、継続的なCX向上に貢献します。
注意点
- 現状、日本語には非対応です。
- テーマレポートは直近3,000件のコンタクトにのみ適用され、かつ作成後30日間まで保持されます。また、対象件数が300件未満の場合はレポート生成自体ができません。
3:コンタクト履歴の機密データマスキング(日本語未対応)
https://docs.aws.amazon.com/ja_jp/connect/latest/adminguide/sensitive-data-redaction.html
概要
音声文字起こしと録音音声から個人識別情報(PII)を自動的に秘匿化する機能です。名前、住所、クレジットカード番号などを検出・マスキングするため、会話ログに個人情報が残さない運用が可能です。なお、2025年7月現在は日本語に未対応です。
基本的な使い方
1.記録と分析の設定ブロックを設置する
Amazon Connectのコンタクトフローにて、「記録と分析を設定」ブロックを追加します。記録言語を選択します。
2.マスキング対象のPIIエンティティを選ぶ
銀行口座番号、電話番号、パスワードなど、最大39種類の機密項目からマスキング対象を設定します。検出されたデータを「固定文字列に置換」または「無音」にするなど、用途に応じた方法を選択します。
選択できるPIIエンティティ一覧
- 金融
- 銀行口座番号
- 銀行ルーティング番号
- クレジット/デビットカード番号
- クレジット/デビットカードの有効期限
- クレジット/デビットカードの CVV
- International Bank Account Number
- PIN
- SWIFT コード
- 医療
- カナダ公共医療サービス番号
- 英国 NHS 番号
- 国籍
- カナダ社会保険番号
- 米国社会保障番号
- 英国国民保険番号
- 米国パスポート番号
- 運転免許証番号
- インドアーダール番号
- 個人情報
- 名前
- 年齢
- Eメールアドレス
- 電話番号
- 住所
- 納税
- 米国個人納税者番号
- 英国納税者固有番号
- インド納税番号
- IN NREGA 番号
- テクニカルセキュリティ
- AWS アクセスキー
- AWS シークレットキー
- IP アドレス
- MAC アドレス
- パスワード
- URL
- ユーザー名
- 車両ID
- ナンバープレート
- Vehicle Identification Number
- その他
- インド有権者 ID
- 日時
- エージェントの表示名
- 顧客の表示名
- アタッチメント名
4.通話を実施・確認する
録音・トランスクリプト画面で、PIIエンティティの検出ができていることを確認します。
下記の画像の例では、PIIエンティティを検出した場合文字起こしをマスキング、録音を無音にする設定をしています。
良い点
- 録音・記録に残るデータを自動的に秘匿化することで、プライバシー保護や法令遵守に対応できます。
- 最大39種類の機密情報に対応しており、ビジネス要件に応じたフィルタリングが可能です。
注意点
- 2025年8月現在、日本語での利用ができません。また、日本でよくマスキング対象とされるデータがPIIエンティティの種類から選択できない場合があり、機能のローカライズが期待されます。
- 言葉の区切り方や読み方によっては、設定意図と異なるPII種別にマスクされる場合があります。(例:電話番号が誤ってカード番号と認識される)。
Contact Lensを導入する際のTips
全4回の記事にわたり、Contact Lensの全機能をご紹介しました。利用を開始する際は、どの機能をどのように業務に組み込むかの検討がとても重要ですが、下記のポイントにもご注意ください。
・日本語環境では利用できない機能がある
2025年7月時点では、一部の機能が日本語では利用できません。AWSのアップデート情報は公式ページで確認することができます。最新の情報を基に業務への利用を検討してください。
・新料金体系の利用を検討する
Amazon Connectは、Contact Lensを含むAIを活用した高度な機能の利用料金を、電話やチャットの利用料金にバンドルする新料金体系を提供しています。この料金体系はAI機能を使い放題で利用でき、順次提供される新機能も利用しやすくなるメリットがあります。いろいろなAIの機能を組み合わせて利用する場合や、複数の業務でAIを利用する場合は、新料金体系の利用を検討してください。
・一部の業務で試験運用することを検討する
Contact Lensは、対象フローやユーザー権限を絞って試験運用することができます。Contact Lensの機能が自社業務に合うか一部業務で確認したい場合は、これらの設定を利用することを検討してください。
まとめ
Contact Lensについて、管理者向けの機能をご紹介しました。
現時点で日本語に対応している機能はカスタム語彙だけですが、文字起こし結果の精度が向上するだけでも業務効率が改善することが見込まれます。また、テーマ検出や機密データのマスキングも日本語対応されれば、強力なコンタクトセンター運用の効率化ツールとなりえます。Contact Lensの利用を始める設定はAmazon Connectの画面操作だけで可能なので、ぜひ利用を検討してください。
今後もAmazon Connectの機能紹介記事を発行しますので、更新通知を受け取りたい方は弊社のメールマガジンをぜひご登録ください。
弊社ではAmazon Connectの導入もご支援しております。お気軽にお問い合わせください。
機能一覧
Contact Lensの機能(20機能に分類)を利用シーン別にまとめました。
機能の内容がわかりやすいように説明をしているため、Amazon Connectの公式資料とは名称等が違っている箇所があります。予めご了承ください。
オペレーター向け機能
本記事と同様に、機能を解説した記事はこちらです。併せてご覧ください。
機能名 |
概要 |
日本語対応 |
通話後の音声文字起こし |
オペレーターと顧客それぞれの通話音声を通話終了後にテキストに変換し、記録します。テキストデータはAmazon Connectの「連絡先の詳細」、またはCCP(顧客との電話やチャットを操作する画面)で確認できます。 |
対応済み |
リアルタイム音声文字起こし |
オペレーターと顧客それぞれの通話音声をリアルタイムでテキストに変換します。テキストデータはAmazon Connectの「連絡先の詳細」で手動更新を行うことで確認できます。 |
対応済み |
コンタクト後要約 |
通話終了後に会話の要点を自動で要約します。要約結果はAmazon Connectの「連絡先の詳細」の概要欄に表示されます。要約が自動で生成されると、コンタクトの後の処理(例:顧客にメールを送る、CRMに通話結果を登録するなど)がスムーズになります。 |
未対応 英語での通話は要約されました。今後のアップデートで日本語に対応することを期待します。 |
通録再生 |
顧客とオペレーターの会話の録音データを、音声文字起こしと一緒に再生できます。 |
対応済み |
SV向けのモニタリング機能・管理機能
本記事と同様に、機能を解説した記事はこちらです。併せてご覧ください。
機能名 |
概要 |
日本語対応 |
感情分析結果の数値化と表示 |
音声をテキスト化し、顧客とオペレーターの感情状態を単語から分析します。オペレーターと顧客が会話を開始してから終話するまでの時系列で感情変化を可視化します。 |
対応済み |
カテゴリ分類の自動化 |
事前に定義したルールに基づき、コンタクトを自動的に振り分けます。ルールには、含まれる単語や通話時間、感情スコアなどを設定することができます。カテゴリ分類が自動化されることで、担当者はデータ分析などの処理に集中することができます。 |
対応済み |
重要な会話のハイライト表示 |
「連絡先の詳細」の録音とトランスクリプトの表示画面で、オペレーターと顧客の会話の終了後に重要な部分(主題/結論/行動の結果など)を自動的に識別して、アンダーラインで強調して表示します。長いコンタクトでも要点を理解しやすくするための機能です。 |
未対応 英語の対話に対しては主題/結論/行動の結果がアンダーラインで強調して表示されます。日本語は言語自体が未対応なので、キーハイライト機能は利用できません。(2025年7月時点) |
コンタクトの高度な検索 |
Contact Lensの会話分析で取得したメトリクスをコンタクト検索のフィルターとして利用します。感情スコア、評価スコアなどでコンタクトを検索できるようになります。 |
対応済み |
ルール設定とアラート通知 |
リアルタイムのコンタクトセンターのパフォーマンス分析結果や、オペレーターの評価の値に基づいて、自動的にEメールやAmazon ConnectのタスクをSVに送信するルールを作成することができます。(例:エージェントの休憩時間が規定の時間を超えた場合にEメールでアラートを送信) |
対応済み |
会話分析ダッシュボード |
Contact Lensによる会話の分析結果(例:以前と比較して増減が顕著な問い合わせカテゴリなど)をダッシュボード上に視覚的に表示します。 |
対応済み |
エージェント画面録画 |
エージェントのデスクトップを画面録画する機能です。顧客対応中の画面操作が記録できるので、オペレーターのパフォーマンスの改善などに活用できます。 |
対応済み |
SV向けの評価系機能
本記事と同様に、機能を解説した記事はこちらです。併せてご覧ください。
機能名 |
概要 |
日本語対応 |
会話分析メトリクス |
オペレーターと顧客のそれぞれの発話時間比率、沈黙の長さ、割り込みをして発話した回数など、会話の定量的指標を自動計測します。 |
対応済み |
評価フォーム作成 |
使用する場面に応じた評価フォームを作成することができます。条件付き質問(例:ある項目が「はい」であれば追加する評価項目)や、評価項目ごとの重要度(スコア)の調整も可能です。 |
対応済み |
手動のパフォーマンス評価 |
評価フォーム作成機能で事前に作成したフォームを使用して、個々のコンタクトごとに評価することができます。 |
対応済み |
機械学習を利用した評価の自動化 |
事前に作成したフォームを使用して評価する際に、会話分析の結果から定量的に評価できる質問項目について、Contact Lens が自動で評価します。 |
対応済み |
生成AIを活用した評価 |
事前に作成したフォームを使用して評価する際に、評価基準を自然言語で指定することで、生成AIが定量評価以外の質問項目を自動で評価します。 |
対応済み ※プロンプト(AIに対する指示文)で日本語で回答するよう指示する必要があります。指示をしないと英語で出力されます。 |
キャリブレーションセッション |
SVによる採点基準の整合性を高めるワークショップ機能です。同一のコンタクト履歴を複数のSVが評価し、各評価結果の差分を比較します。 |
対応済み |
SV向けのその他の機能
機能名 |
概要 |
日本語対応 |
音声認識におけるカスタム語彙登録 |
業界・企業固有の専門用語や製品名など、標準のContact Lens では認識精度が低くなる語彙を辞書登録する機能です。文字起こしの精度向上に貢献します。 |
対応済み |
コンタクト履歴の機密データマスキング |
個人情報やクレジットカード番号などの機密データを自動検出し、マスキング処理します。テキストデータだけでなく、通話録音の音声もマスキング処理します。 |
未対応 2025年7月時点は英語の会話で自動検出が可能です。日本語は言語自体が未対応なので、どの項目もマスキングすることができません。 |
コンタクトテーマの自動検出 |
大量の会話データから、頻出の問い合わせテーマを自動で検出します。新しい問い合わせ傾向の発見に役立ちます。 |
未対応 2025年7月時点は英語の会話で自動検出が可能です。日本語は言語自体が未対応なので、テーマ検出はできません。 |
バーチャレクスでは、Amazon Connectの導入支援や、AWS基盤活用のコールセンターシステムクラウドサービス「Connectrek」の開発・提供を行っています。
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バーチャレクス・コンサルティング株式会社 プロダクトエンジニアリング&サービス部 北村 紫織(きたむら しおり) 2017年新卒入社。自社CRMソフトウェア「inspirX(インスピーリ)」導入案件の経験を経て、自社クラウドサービスCRMソフトウェアのvirtualex iXClouZ、AWSクラウドサービスAmazon Connect、Amazon Connectをベースとした自社独自開発のConnectrekの導入プロジェクトおよびサービス企画に参画。 |
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バーチャレクス・コンサルティング株式会社 プロダクトエンジニアリング&サービス部 柴田 康平(しばた こうへい) 2024年新卒入社。自社プロダクトの機能設計や製品開発に携わり、現在はAWS基盤の生成AIソリューションを用いたコンタクトセンター向けサービスの構想・検証・製品化に一貫して関与。音声認識やナレッジ検索などの技術要素のフィジビリも進めている。 |