2025年9月1日、バーチャレクスは、AWSが提供する音声解析ソリューション「Amazon Transcribe Live Call Analytics(LCA)」を基盤にした通話音声のリアルタイム解析・可視化ソリューションの提供を開始しました。本レポートでは、まずリリース内容を詳しく解説し、その上で当社が社内で行った技術検証の詳細と技術的示唆をご紹介します。
プレスリリース内容の技術的紹介
1. 提供開始の背景と目的
国内のコンタクトセンターでは、リアルタイムの通話内容の可視化・分析による対応品質向上へのニーズが増大しています。LCAはリアルタイム音声認識・通話内容分析の高完成度なサンプル構成ですが、英語圏を前提としており、メニューや表示項目が日本語化されていないため、日本語環境での導入にはハードルがありました。そこで当社は、LCAの優れた機能群を日本語環境に最適化し、国内コンタクトセンターの現場に即した構成で提供を開始しました(プレスリリース)。
2. LCA活用による業務品質の高度化
本ソリューションは、コンタクトセンターにおける応対品質の可視化やオペレーター支援、応対履歴の高度活用により、通話に基づく業務改善とDX推進を支援するものです。LCAは、オペレーター接続後のフェーズに特化したソリューションのため、オペレータ接続前を担う「使えるAIエージェント(プレスリリース)」との連携により、通話の前後を一貫して支援できます。
3. 標準機能:リアルタイム解析と自動支援
以下に、本リリースで紹介されているLCAの主要機能と効果を整理します。
項目 |
内容 |
利点 |
リアルタイム音声認識 |
通話内容を即時テキスト化 |
会話の可視化とトラッキング |
感情分析 |
顧客・オペレーター発話から感情検知 |
品質評価・早期エスカレーション |
キーワード検出・カスタムルール |
特定語を自動タグ付け・分類 |
モニタリング効率化 |
通話要約 |
生成AIによる要点・アクション抽出 |
後続対応の高速化 |
エージェントアシスト |
必要情報やアクションをリアルタイム提示 |
オペレーター支援 |
PII(個人情報)マスキング |
通話中のPIIを検出して隠蔽 |
情報漏洩リスクを低減(※現状日本語には未対応) |
また、Amazon Connect(Transcribe/Contact Lens)、Genesys Cloud、SIP統合といった複数の音声システムとの互換性も確保されているため、現在のコンタクトセンターシステムを維持したままLCAを追加してコンタクトセンターをアップデートすることも可能です。
4. 今後の拡張方向
今後の展望については下記の通りです。
- 生成AIによる応対要約・意図抽出・FAQ生成との連携
- CRM / FAQシステムとの統合
- 「使えるAIエージェント」との連携による、前後段を含めた応対体験の最適化
技術的検証
LCAを実運用に適した形で導入するため、技術的な検証を実施しました。その検証内容と成果を、以下に具体的にご紹介します。
検証A. Agent Workspace への LCA の埋め込み
目的
LCAをAgent Workspace内で自動表示すること(スクリーンポップ)により、入電時対応における利便性を高め、オペレーター業務を支援する。
検証内容と技術面の留意点
スクリーンポップは実現できました。しかし、電話の接続中(通話開始前)に表示されるため、LCAが処理を開始する前に画面が表示されてしまい空白表示になってしまいました。
解決策として、以下の方法を検討しました。
-
- 通話開始後に手動リロード誘導
- LCA画面にリロードボタンを配置し、空白表示になった時はオペレーターがリロード実施
- Amazon Connect SDK による通話開始イベント取得で自動リロード
- 起動ボタン方式に切り替え、通話開始後にオペレーターが手動で起動すれば表示される運用への転換
以上の解決策のうち、有効であったのはAmazon Connect SDKによる通話開始イベント取得で自動リロードのみでした。Amazon Connect SDK の検証では、「接続中」イベントは取得不可でしたが、通話開始イベント取得は可能である点が確認され、現場運用上は十分実用的と判断されました。
結論
表示タイミング制御の実装は必要ですが、対応可能です。
検証B. Contact Lens 通録再生への対応
検証目的
LCAの通話録音再生画面をContact Lensの録音ファイルに対応させ、オペレーターおよびSVが再生可能としたい(LCAには通録再生機能自体は存在しますが、Contact Lensの録音再生には標準では非対応なため)。
検証内容と成果
- LCAには通録再生機能自体は存在しますが、Contact Lensの録音再生には標準では非対応。
- 調査の結果、CTR(Contact Trace Record)から通録ファイルのパスを取得できることが判明しました。
- 検証の結果、LCAソースにCTR → 通録ファイルのS3パス → DynamoDB保存処理を追加し、録音再生を可能にできることが実証されました。
結論
LCAの画面上でのContact Lensの通録再生機能を、CTR経由の情報取得+データベース保存+画面に反映の形に修正することより利用可能です。
検証C. 個人情報マスキングの日本語対応
課題背景と検証目的
LCAのPIIマスキングはContact Lens利用時には日本語では利用不可であるため、Amazon Comprehendを用いた日本語における個人情報マスキングの実現方法の検討および動作検証を実施した。
検証結果と課題点
検証の結果、Amazon Comprehendによる個人情報マスキングを実現できました。
ただ、下記の4点について特に実運用上の課題があった。
- スペース依存の検知ロジック
日本語の場合、メールアドレスの前後にスペース文字が入らないため、メールアドレスや名前の検知に失敗する傾向。例:「私のアドレスはyamada@virtualex.co.jp」は非検知。 - 日本語読みの文字変換問題
メールアドレスを口頭で読み上げる場合、「あおやま」と読み上げると"@"や"."などが文字化されず、メールアドレス形式にならないため、マスク処理対象として認識されない。 - 表示タイミングのズレ
リアルタイム処理時に、一瞬未遮蔽の状態で個人情報が表示される仕組みとなっている様子。 - マスク処理の実施タイミング
リアルタイムでの画面表示時での個人情報マスクは不要で、通話後の要約生成時にマスク処理を行うほうがむしろ必要なのでは、という意見もあった。
結論
Amazon ComprehendによるPII処理は一定程度利用可能だが一部は限定的、またリアルタイム対応ではなくバッチ処理的にマスク実施する方が現実的かつ安全性が高いという結論に至りました。
まとめ
本検証を通じ、今回の課題は実用レベルで活用可能と結論づけました。
項目 |
技術的成果 |
対応方針 |
Agent Workspace 埋込み |
実現可能(タイミング調整要) |
SDK活用、自動リロード、起動ボタン案を検討 |
通録再生 |
CTR経由で実現可能 |
LCAのソースを改修してCTR経由の情報取得→DynamoDBに保存→LCAのUIに通録再生画面を埋め込み |
日本語PIIマスク |
一定利用可能だが、課題あり |
通話後バッチ処理型運用の設計が望ましい |
本プレスリリースの内容や、AWSを用いたAIコンタクトセンターの導入・構築にご興味をお持ちの方は、当社までお問い合わせください。
バーチャレクスでは、Amazon Connectの導入支援や、AWS基盤活用のコールセンターシステムクラウドサービス「Connectrek」の開発・提供を行っています。