この記事は、Amazon Connectの基本機能を紹介するシリーズです。
今回はアウトバウンドキャンペーン機能をご紹介します。インバウンド業務向けの機能が多かったAmazon Connectにアウトバウンドコールの機能が追加されたことで、一層様々なコールセンターの業務に利用できる可能性が高まりました。中心的な機能や最新鋭のAI機能をご紹介しているので、ぜひ最後までお読みください。
※この記事ではAmazon Connectの管理画面から設定できる内容をお伝えします。他のAWSサービスやサードパーティのアプリケーションとの統合については扱いません。予めご了承ください。
※画面キャプチャ画像内の赤枠や赤文字の書き込みは弊社による注釈です。実際のAmazon Connectの画面には表示されません。
目次
Amazon Connectのアウトバウンドキャンペーンとは
Amazon Connect のアウトバウンドキャンペーンとは
コールリストに自動で発信し、応答内容に応じて自動処理やオペレーターへの振り分けを行う仕組みです。
CSVで顧客データをインポートしたり、Amazon Connectで利用する顧客データである「顧客プロファイル」からアウトバウンド対象の顧客を条件付けして抽出したりすることで、コールリストである「顧客セグメント」を作成します。
顧客セグメントに対し、電話、メール、SMSといった手段でアウトバウンドができます。電話はオペレーターによる対応と自動音声による対応が可能です。
結果はダッシュボードで確認でき、PDFやCSVで出力することができます。フローの組み方を工夫することで、個々の顧客への架電結果を顧客プロファイルに登録することや、Lambda等を用いて外部システムに登録することも可能です。
✅特長
- 電話やメールなどのアウトバウンドを1つの管理画面から操作できます。
- 顧客データは、Amazon Connectの顧客プロファイルのほか、CRM(Salesforce, Zendeskなど)のデータやCSVデータも選択可能です。
- AI機能が充実しており、AIが顧客セグメントの作成例を提案したり、AIとのチャットで顧客セグメントを作成できます。
⚠️注意点
- アウトバウンドツールによくある倍率設定機能はありません。
- 架電結果を自動的に顧客データに反映するには、フローの中で顧客プロファイルへの書き込み処理を実装する必要があります。
実際に操作をしてみた所感として、顧客セグメントを作成してアウトバウンドを行うところまでは機能が充実しており、電話やメールなどの手段を横断で管理できるメリットを感じました。一方、アウトバウンドキャンペーンの結果を確認する手段が2025年10月3日現在は少なめなので、今後の機能拡充に期待したいです。
利用の流れ
アウトバウンドキャンペーンの利用の流れを図示します。
実際にアウトバウンドキャンペーンをお試しになりたい方は、サンプルデータと動作確認手順がまとまっているAWS公式ハンズオンがお勧めです。
アウトバウンドキャンペーンの概要とポイント
準備
アウトバウンドキャンペーンはデフォルトでOFFなので、有効にする手続きが必要です。
⚠️申請にかかわる注意点
- 日本の電話番号は、AWS側での取得作業が必要なため、数日かかります。また、取得したい番号によっては身分証明書などの提出を求められます。
- 日本の携帯電話に発信する場合は制限緩和の申請をする必要があります。
- Eメールでアウトバンドキャンペーンを行う場合、Amazon SESを本番稼働モードにする必要があります。申請が受理されるまでに最大24時間かかります。
顧客セグメントの作成(手動)
顧客セグメントとは、いわゆるアウトバウンドコールの発信先情報(コールリスト)のことです。顧客プロファイルやCSVファイルの顧客データ、外部CRMから統合した顧客情報を利用できます。
⭐Tips 禁止リストを考慮したアウトバウンドキャンペーンの作成方法
- 準備
- 顧客のデータに架電禁止リストやメール禁止の項目を作っておき、データを入力します。
- 上記項目でフィルタリングし、架電禁止顧客だけを集めた顧客セグメントを作成します。
- 実行
- 顧客セグメントを作成する時に、「特定の顧客セグメントに載っている顧客は対象から除く」という設定ができるので、準備で作成した架電禁止顧客だけを集めたリストは除外する条件を設定します。
- 顧客セグメントを作成する時に、「特定の顧客セグメントに載っている顧客は対象から除く」という設定ができるので、準備で作成した架電禁止顧客だけを集めたリストは除外する条件を設定します。
セグメントを作成している画面
顧客セグメントの作成(AIの活用)
アウトバウンドコールの発信先情報を、AIに提案させ作成することができます。AIの提案によるアイデアを取り入れることができる、自然言語でAIに指示をすることで顧客セグメントが作成できるといった利便性があります。
セグメントAIアシスタント
コパイロット的なAIがセグメント作成をアシストしてくれる機能です。
初めて使う人のために「どうやって質問すればいいか」をサジェストの質問で初期表示される点が使いやすい機能デザインだと感じました。
注意点として、あいまいな指示では処理される場合とされない場合があります。例えば「メールしてよい顧客すべて」というプロンプトでは、顧客データのカラム名を明示しなくても、顧客データのオリジナル項目「ok_to_e-mail」で「yes」が入力されている顧客と判断してくれましたが、単に「住所が東京都」と指示すると、「住所」という文字が含まれる顧客プロファイルの項目がデフォルトでいくつかあるせいか、意図した顧客セグメントが作成できませんでした。
セグメントAIアシスタントを利用している様子
顧客のトレンドからのインスピレーション
一般的なマーケティングでのセグメントを3つ例示します。パネルをクリックすると自動的にセグメントが作成されるので、使い勝手がよいです。
⚠️注意点
- 自社業務に合わせた提案が表示されやすくするなどのカスタマイズをすることができないので、参考程度に使うべきです。
- 対象顧客の割合が0%となっている場合など、該当するセグメントが無いインスピレーションが表示されることもあります。
顧客からのインスピレーション
電話のアウトバウンドキャンペーン
プレディクティブダイヤラーとプログレッシブダイヤラーがあります。公式ハンズオンによると、下記のように紹介されています。
プレディクティブダイヤラー |
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プログレッシブダイヤラー |
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発信した電話に応答があった場合、エージェントによる有人対応と、ボットによる自動対応が選択できます。ボットによる対応を始めに行い、必要に応じて有人に着信させることは可能です。発信した電話に応答がなかった場合、電話が切電された/留守番電話になった、といったケース別に挙動を設定できます。(例:SMSメッセージを送る、留守番電話にメッセージを残す)
ボットによる自動対応は、あらかじめ決めた質問を行って顧客の回答を収集することや、生成AIを活用してより柔軟な案内をすることができます。ボットはAmazon Connectのフローを利用するため、通常のフロー作成と同じ機能が利用できます。(例:AWS Lambdaとの組み合わせで外部システムを呼び出す)
キャンペーンの開始タイミングは、今すぐ開始と、スケジュール設定の2通りがあります。今すぐキャンペーンを開始すると、5分後に開始されます。スケジュールして開始する場合は、開始日時を設定しておくとその時間に自動的に開始されます。スケジュールして開始する場合も、最短の開始時間は現在時刻の5分後からとなります。
✅特長
- プレディクティブダイヤラーは、その仕様上、利用可能なエージェントの数以上に発信されることもあり得ます。
- 顧客セグメントごとに最大コンタクト回数を設定して、そのキャンペーンを自動的に繰り返すことが可能です。(例:1日当たり1回まで、かつ、2週間で最大5回まで)
- アウトバウンドキャンペーンの結果を顧客プロファイルに反映する機能はありませんが、コールフローの中で顧客プロファイルにコールした内容を記入する仕組みを作ることで反映できるようになります。(例:ボットによる自動架電で、顧客が入力したDTMFを顧客プロファイルに記入しておくことで、後でコンタクト結果を確認することができる。)
⚠️注意点
- プレディクティブダイヤラーは明示的に架電する倍率を設定することはできません。(例えば1.2倍なら、10名のオペレーターがいて、常時12本架電するというような設定)
- 顧客ごとにすべてのキャンペーンを横断して架電回数上限を設定する機能はありますが、現在何回架電したのかを確認する画面は標準機能にはありません。
- 1つのアウトバウンドキャンペーンは1つの電話番号からしか発信できません。発信番号を変えたい場合は別のキャンペーンを作る必要があります。
電話のアウトバウンドキャンペーンを作成している画面
メールやSMSでのアウトバウンドキャンペーン
顧客セグメントに対してメールやSMSを一斉配信することもできます。電話よりも時間を選ばずにキャンペーンが実行でき、オペレーターの席数による同時進行数の制限もないので、より柔軟にアウトバウンドキャンペーンができます。
メールはテンプレートを作成できます。テンプレートはリッチテキストに対応しており、顧客名などを自動入力する変数も利用可能です。
また、メールドメインを取得することでメールアドレスは100件まで作成できます。業務や送付目的に合わせたアドレスの使い分けがお勧めです。(送信専用、予約のリマインドなど)
⭐変数を利用する際のTips
- テンプレートで変数を利用する場合は、データが空欄になっている場合にメール本文に変数の表記がそのまま残ってしまわないよう、デフォルト値を設定する機能を利用するとよいでしょう。 例:顧客名が入っていないデータは「お客様」と表示する
他システムでの操作を起点とした発信操作の自動化
例えば、所定の形式の顧客情報CSVをS3(ストレージ)に配置することを契機として、アウトバウンドキャンペーンのリストを自動作成し、アウトバウンドキャンペーンを開始するというような設定ができます。
Amazon Connect以外に、データストレージ(S3)やLambda、EventBridgeなどを使うことが多いので、AWSの各種サービスを使ったインテグレーションの知識が必要になります。
他システムでの操作を起点とした発信操作の自動化のイメージ図
画像出典:Amazon Connect - マルチチャネルアウトバウンドキャンペーン
アウトバウンドキャンペーンのメトリクス(レポート)
アウトバウンドキャンペーンの途中経過や実行結果を確認するレポート機能です。当該キャンペーンの到達率などの数字を見ることができるほか、他のキャンペーンとの比較もできます。レポートをCSVやPDFで出力することもできます。
各メトリクスは公式ドキュメントで詳しく解説されていますのでご参照ください。
⚠️注意点
- 途中経過をリアルタイムで表示するには、画面を手動で更新してください。自動的にリアルタイムな表示が切り替わる機能は現在はありません。
- アウトバウンドキャンペーンのメトリクスはキャンペーン全体としての結果を見る機能です。顧客ごとに結果を確認するビューは無いので注意が必要です。
メトリクスの画面の例(表示しているウィジェットは一例です)
その他
アウトバウンドキャンペーン全般に関するポイントをまとめました。
- 東京リージョンで作成されたインスタンスのアウトバウンドキャンペーンは、2025年10月3日現在は日本・ベトナム・アメリカの宛先にしか送信できません。
- 実行中のアウトバウンドキャンペーンは、中断ボタンで中止することができます。中断ボタンはアウトバウンドキャンペーンの詳細画面にあります。
- アウトバウンドキャンペーンをインスタンスで無効にするときは、事前にすべてのキャンペーンを削除する必要があります。
- Amazon Connectの管理者ガイドに、アウトバウンドキャンペーンのベストプラクティスが載っています。実用的なアドバイスが載っているので、業務運用を考える際は一度目を通すことをお勧めします。
まとめ
Amazon Connectのアウトバウンドキャンペーンについて、機能の概要と実際に操作してみてのポイントをまとめました。アウトバウンドキャンペーンのイメージがつかめましたでしょうか。
実際に機能を確認してみて、コールリストを作る際の考え方をアシストしてくれるAI機能が充実していると思いました。仮にAIの提案内容がそのまま使えない場合も、発想の起点としては十分活用できます。
本記事の冒頭でも述べましたが、Amazon Connectのアウトバウンドキャンペーンは、与えられたデータからセグメントを作成してアウトバウンドを実施することまでの機能が充実している印象です。
キャンペーンの結果はダッシュボードで確認できますが、あくまでキャンペーン全体としての数字が得られるだけで、どの顧客にリーチしたかを確認する手段が標準機能としては存在しません。顧客プロファイルにキャンペーン結果を記入する処理をコールフローに作成することで顧客単位の結果を確認することが可能になりますが、Amazon Connectの構築経験がない場合は構築が少し難しいと感じるでしょう。
このような点を含め、今後のアップデートにも注目していきたいです。
今後もAmazon Connectの機能紹介記事を発行しますので、更新通知を受け取りたい方は弊社のメールマガジンをぜひご登録ください。
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執筆者紹介

プロダクトエンジニアリング&サービス部