本記事では、コンタクトセンターの種々の業務への生成AI導入事例を、工夫やメリットを交えつつご紹介します。
生成AIは、今やコンタクトセンターのさまざまな業務で実用段階に入ってきています。これまでは実証実験やテスト導入といった取り組みが中心でしたが、最近では実際のオペレーションの中で本格的に活用されるケースが増えてきました。
すでに導入を進めている方にも、これから検討される方にも、本記事の内容が業務改善のヒントとしてお役立ていただければ幸いです。
前編(生成AIチャットボットの活用事例3例)はこちら
目次
事例紹介
株式会社ベネッセコーポレーション
テンプレートが無い問い合わせにも、要点入力で生成AIが返信メール下書きを支援
この事例のポイント
- テンプレートがないイレギュラーなメール問い合わせの返信文作成で生成AIチャットボットを活用
- チャットボットに回答の趣旨を入力することで、ビジネスメールの一次案を自動生成
- オペレーターへの負荷軽減、平均対応時間の約47%短縮を実現
通信教育サービス「こどもちゃれんじ」や「進研ゼミ」に関する問い合わせ業務でのAIチャットボットの活用事例です。ベネッセコーポレーションでは、学びの多様化や問い合わせ内容の高度化により、問い合わせ対応時間が増加していました。また、繁忙期にはオペレーターの育成効率向上・応対品質向上が課題となっていました。こうした状況に対応するため、株式会社TMJおよび株式会社Hmcommと共同で、音声認識AIと生成AIを活用した「次世代型コンタクトセンタープロジェクト」を推進しました。
このプロジェクトでは、①電話での問い合わせにおいて、ボイスボットで用件をプレヒアリングし、オペレーターに最適な回答候補を自動生成、②回答テンプレートが利用できないイレギュラーな問い合わせへの一次回答文の自動生成、の2つの場面で生成AIが活用されています。②では、テンプレートでは対応しきれないメール問い合わせに対し、オペレーターはOpenAIのGPTを活用した社内チャットボット「Benesse Chat」に、回答の趣旨(問い合わせ内容の要点と、作成してほしいビジネスメールのトーン)を入力します。Benesse Chatは、入力内容を参考に丁寧で適切なメールの文面を作成します。メール文面をいちから作成する作業はオペレーターへの負荷が高い業務ですが、一次案をAIが作成することにより、オペレーターの負荷を軽減しています。また、1件当たりの平均対応時間も15分から8分へ短縮できました。
この事例は、生成AIの得意分野である「与えられた情報を踏まえた文章生成」を実務にうまく組み込んでいます。多くのコンタクトセンターでのAI活用はナレッジの検索とオペレーターへのFAQサジェストが中心ですが、ナレッジが無い問い合わせへの対応でも、生成AIを補助役とすることで応対効率を高めることができる、という視点が他社にないポイントでした。
引用元:https://blog.benesse.ne.jp/bh/ja/news/management/2023/10/12_6009.html
KDDI株式会社
現場の運用はそのままに、分類・要約・分析を自動化
この事例のポイント
- 生成AIがフリーフォーマットの応対記録に自動でカテゴリを付与
- カテゴリ化した応対データをもとに、傾向分析・考察・今後の課題などを含む要約レポートを生成
- 現行業務を変更せずにVOC(顧客の声)を有効活用
応対記録の自動カテゴライズと、要約レポートの作成に生成AIを活用した事例です。コンタクトセンターのお問い合わせ対応業務で作成する応対記録はフリーフォーマットのため、体系的な整理や分析が困難でした。そのため、顧客の声(VOC)を十分に分析・活用することができないという課題がありました。この課題の解決策として、KDDI社ではAmazon Web Services(AWS)の生成AIアプリケーション構築サービス「Amazon Bedrock」を活用し、独自のWebアプリケーションを開発しました。
アプリケーションは具体的に2つの場面で活用します。
①応対記録の自動カテゴライズ
オペレーターが記録したフリーフォーマットの応対記録を「クーポン」「料金」「加入」「解約」などのカテゴリーに自動で分類します。生成AIを利用したことで、用語の揺らぎや表記違いを個別に登録する手間なしでカテゴライズし、データの構造化を実現しました。
②分析と要約レポートの生成
カテゴリーで分類した応対データを利用し、生成AIがサービス別の傾向やカテゴリー別の傾向、考察、今後の課題などをまとめた要約レポートを自動で作成します。このレポートは、プロンプトの設定により様々な項目や条件での出力が可能です。
このように、オペレーターの業務に負荷をかけることなく応対データを分析してVOCを有効活用できるようになりました。
この事例は、生成AIが得意とする「要点の抽出」や「要約・分析」といった機能を、応対記録の整理という現場の課題に的確に応用した好例です。人手によるカテゴライズでは、判断基準のばらつきや、カテゴリー数の多さに起因する分類の難しさといった課題が避けられません。また、データ分析やレポート作成は、業務知識を持つ担当者の多くの時間を要する定型業務です。生成AIを活用することで、そうした問題を解消しながら現場の負担を軽減できます。業務の効率化と品質の向上を両立するうえで、本事例は非常に実用的かつ現実的なアプローチであるといえるでしょう。
引用元:https://cloudpack.jp/casestudy/24-18.html
JCOM株式会社
生成AIによる感情分析でオペレーターの評価を透明化
この事例のポイント
- 生成AIが通話中の顧客の感情分析を実行
- 感情変化から独自の評価指標を作成し、オペレーターの評価に利用
カスタマーセンターでの顧客対応業務に生成AIを活用し、顧客の問い合わせ意図のカテゴライズや、通話中の顧客の感情分析を行った事例です。この記事では、業務改善に感情分析を活かしている貴重な事例として、感情分析によるオペレーターの評価の透明化について取り上げます。
JCOM社のカスタマーセンターでは、オペレーターの評価指標として、従来は顧客アンケートに基づくNPS(Net Promoter Score:顧客が企業や商品・サービスをどれだけ他者に薦めたいと思うかを測り、企業の成長性や収益と関連付けるために用いられる指標)を利用していました。この方法は、回答の背景となる詳細な理由が不明瞭であること、任意のアンケートのため回答数を確保するのが難しいことが課題となっていました。
このオペレーターの評価の課題に対応できたのは、カスタマーセンターの業務改善のためにGoogleの生成AIモデル「Gemini」を利用した通話データのカテゴリの詳細化・要約を実現する過程でした。生成AIが応対開始から終了までの顧客の感情分析を行い、応対開始時に中立的もしくは否定的だった感情が肯定的に変化した割合を「最終ポジティブ率」とします。この最終ポジティブ率がNPSと相関があることがわかり、2025年度からこの指標をオペレーターの応対品質における評価軸の新たな重要指標として採用しています。
この事例は、感情分析を最終ポジティブ率という独自の評価指標の算出に利用することで、オペレーターの評価方法を透明化することに役立てています。感情分析のオペレーターの評価への利用例として参考になります。
引用元:https://newsreleases.jcom.co.jp/news/20250401_15372.html
富士通コミュニケーションサービス株式会社
教育の質と効率を両立する、生成AIとのロールプレイ
この事例のポイント
- 新人オペレーターのOJTに生成AIを利用したロールプレイングツールを導入
- ロールプレイングツールはリアリティのあるロールプレイ、模範例付きの評価フィードバックを行う
- SVの手間を削減しながら新人オペレーターの教育時間を確保
新人オペレーターのOJT業務に生成AIを活用した事例です。富士通コミュニケーションサービス社では、コンタクトセンターの繁忙期と新人のOJTが重なると、指導役となるオペレーターが十分に確保できないという課題がありました。この問題の解決のため、生成AIによるロールプレイングツールを独自開発しました。
ロールプレイングツールは、オペレーター向けFAQや各種製品マニュアルなどを学習した生成AIが顧客役となり、自動音声でオペレーターに質問をします。オペレーターが質問に回答し、生成AIが回答内容を評価します。生成AIは問合わせの背景や顧客の性格を取り入れて会話をするため、リアリティのあるロールプレイができます。応対終了後、オープニング/クロージング/口癖/案内の正確性の4項目についてAIが自動評価し、模範例付きのフィードバックをします。このツールを利用することで、新人オペレーターは何度も電話対応の練習をして、納得できるフィードバックを得られるようになりました。また、SVも業務負荷が高いオペレーターへのフィードバックの業務を削減でき、負担が軽減されました。
この事例は、一般的に離職率が高いとされる新人オペレーターのOJT期間に生成AIを活用することで、SVの指導の手間を削減しながら満足度の高い教育を実現した点が優れています。多忙なSVにトレーニングに付き合ってもらうには気が引けるという人でも、生成AIが相手のトレーニングならば、自信が持てるようになるまで繰り返し練習ができるため、オペレーション品質の向上に一役買いそうです。
引用元:月間コールセンタージャパン 2024年9月号(株式会社リックテレコム) 「困ったときの救世主」「練習相手」を代替 AIが新人を育て定着を促す4社の取り組み
まとめ
生成AIをコンタクトセンターで利用している事例を、前編・後編合わせて7例ご紹介しました。 各社の取り組みを見ていると、AIの技術進化を背景に、運用負荷を下げながらも顧客体験や業務品質の向上を目指す動きが加速していることがわかります。革新的なシステム化よりも丁寧な対応を重んじる風潮のある日本でも、生成AIによって自動化・無人化が進んでいきそうです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今後もコンタクトセンターで活用されるテクノロジーについて、事例調査や技術的な調査を発表予定です。
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