本記事では、コンタクトセンターの種々の業務への生成AI導入事例を、工夫やメリットを交えつつご紹介します。
生成AIは、今やコンタクトセンターのさまざまな業務で実用段階に入ってきています。これまでは実証実験やテスト導入といった取り組みが中心でしたが、最近では実際のオペレーションの中で本格的に活用されるケースが増えてきました。
すでに導入を進めている方にも、これから検討される方にも、本記事の内容が業務改善のヒントとしてお役立ていただければ幸いです。
今回の前編では生成AIチャットボットの活用事例を中心にご紹介し、後編ではその他の活用例を取り上げます。
目次
事例紹介
株式会社キンライサー
構造化されたシナリオ設計で生成AIチャットボットの誤回答を防止しつつ高精度な応対を実現
この事例のポイント
- 顧客向けFAQ対応チャットボットをホームページに導入
- シナリオ型の入力候補を活用し、生成AIのハルシネーション(誤情報)を抑制
- 会話履歴を分析し、顧客の潜在ニーズの把握と広告施策に活用
ユーザーからの問い合わせ対応業務における生成AIチャットボットの導入事例です。キンライサー社では、従来からコールセンターでの顧客対応を行っていましたが、ホームページのアクセス数増加に伴い、ユーザーの自己解決率の向上による対応業務の効率化が課題となっていました。この課題の解決策として、プロンプト設計やナレッジベース構築により、高精度な回答が可能なAIチャットボット「SELFBOT(セルフボット)」を導入しました。
チャットボットは、顧客の質問に対してFAQやナレッジベースに基づいた引用元つきの回答を生成します。この特徴に加え、最初の質問候補は予め設定したシナリオ型の入力候補を表示し、顧客の問い合わせの意図を特定、その後は意図に沿った質問を提示するという工夫でハルシネーションを軽減しました。
導入効果は顧客のホームページでの滞在時間の伸長・離脱率の低下に表れており、顧客がチャットボットを「コンタクトセンターに問い合わせる前の自己解決用検索ツール」として認知していることがうかがえます。さらに、チャットボットの会話履歴から拾い上げたニーズを広告戦略に活用する、ナレッジを改善するといったデータ利用を行っています。
この事例は、ハルシネーションの抑制のためにあえてシナリオ型の質問形式を取り入れたユニークな事例です。また、チャットボットの会話履歴の分析を通して広告戦略やナレッジの強化につなげている点もコンタクトセンターが利益創出に貢献できる例として参考になります。
引用元:月間コールセンタージャパン 2024年10月号(株式会社リックテレコム) ITの選び方&使い方 CaseStudy キンライサー
公益財団法人大阪観光局
生成AIチャットボットのプロンプト最適化で実現する、多言語対応のおもてなし
この事例のポイント
- 生成AIチャットボットで自然な会話での多言語対応
- 独自のプロンプトエンジニアリングで事業者に特化した回答の精度を向上
- チャットボットの管理業務も省力化
大阪を訪れる訪日外国人観光客を含めた、旅行者からの種々の質問に対応する業務でのAIチャットボット導入事例です。大阪観光局では、2025年の大阪・関西万博に向け、観光案内所やコンタクトセンターでの多言語問い合わせの利便性向上と、観光情報の管理業務の省力化を両立する必要があり、多言語生成系AIチャットボット「Kotozna laMondo(コトツナ ラモンド)」を導入しました。
旅行者がチャットボットに質問すると、チャットボットは大阪観光局のホームページの情報、天気情報サービスなどのリアルタイム情報を踏まえて回答を生成します。対応可能な言語は20言語以上で、GPT-4を活用して自然な会話で回答します。
回答の正確性を高めるための工夫として、固有データベース(ホームページで公開していないデータ)の参照と独自プロンプトエンジニアリング技術を活用しています。この独自のプロンプトエンジニアリング技術Kotozna TPG(Tailored Prompts Generator)は、質問意図をLLMを用いて判定し、それに応じたプロンプトで生成AIが処理を行うというものです。これにより事業者に関連する正確で信頼性の高い情報を提供することが可能になりました。
生成AIチャットボットを利用したことで、管理業務も省力化しました。ルールベースのチャットボットは、回答パターンを人間が作成し、メンテナンスし続ける必要があります。一方、生成AIを活用したチャットボットはAIが質問内容を柔軟に理解し、回答を自動的に生成することができるため、回答パターンの設定の手間を削減することができます。
この事例は、生成AIを利用したFAQチャットボットの中でも、単なるFAQ連携にとどまらず、リアルタイムデータとの連携や自然な多言語対応を実現した点、さらに管理の手間も削減できた点で優れた導入事例と言えるでしょう。
引用元:https://www.jtbcorp.jp/jp/newsroom/2023/09/26_02_kotozna-lamondo.html
KDDI株式会社
要約×再質問で生成AIチャットボットが対応時間を短縮
この事例のポイント
- 問い合わせ対応のプレヒアリングにAIチャットボットを活用
- 長文入力を要約・整理し、不足する情報を自動で追質問することで解決にかかる時間を短縮
- 有人対応への引継ぎにも要約機能を活用
LINE公式アカウント「auサポート」における商品やサービスの使用方法、手続きに関する問い合わせ対応業務に、生成AIチャットボットを導入した事例です。KDDI社では従来からチャットボットを活用していましたが、顧客の入力が長文であったり情報が不足している場合、チャットボットが入力内容を理解できないことがありました。これらの問い合わせは全体の約3割を占め、チャットアドバイザー(オペレーター)が引き継いで対応をするため、解決までに時間を要していました。
この問題に対処するため、生成AIチャットボットを導入し、顧客の入力を要約してAIが処理しやすい質問文に整え、情報が不足していればAIが適切に再質問をするようにしました。これにより、既存のチャットボットでの対応と比較して、お問い合わせ内容の解決までにかかる時間を5分程度短縮できることが事前検証で確認できました。
また、生成AIチャットボットが解決できない問い合わせをチャットアドバイザーに引き継ぐ際も、生成AIによる顧客の入力内容の要約を提供しています。チャットアドバイザーは顧客対応の開始時に要約を読み、迅速に顧客の問い合わせに対応を開始します。
この事例は、生成AIによる問い合わせの整理・要約を通して、過不足のないプレヒアリングを高い精度で完了させている点が優れています。生成AIを活用する以前のチャットボットにおいても、不足情報の有無を確認して再質問をするようにシナリオを組むことが可能なサービスは存在しましたが、この事例では生成AIと追質問の仕組みの組み合わせでより高精度な対応を実現していると推察されます。生成AIを利用した回答文生成の事例が多数を占める中、ヒアリングにも生成AIを生かせるという視点を与えてくれる好例でした。
引用元:https://newsroom.kddi.com/news/detail/kddi_pr-1153.html
まとめ
生成AIをコンタクトセンターで利用している事例を3例ご紹介しました。
後編ではメール文面の一次案の自動生成/分類・要約・分析の自動化/感情分析/生成AIとのロールプレイ研修の事例をご紹介しています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今後もコンタクトセンターで活用されるテクノロジーについて、事例調査や技術的な調査を発表予定です。更新通知を受け取りたい方は、弊社のメールマガジンの購読登録をおすすめします。