日本におけるカスタマーサクセスの『壁』とは? -後編-

CS_wall2_tobira.jpg前回、これまでバーチャレクスとアイティクラウドで共同リリースしてきた、カスタマーサクセスに関する実態調査・分析結果の振り返りと、これから多くの日本企業がカスタマーサクセスに着手していくうえで留意いただきたい4つの"壁"の1つ目「サブスクリプション化の壁」について触れました。この1つ目の壁は、他よりもカスタマーサクセスを最優先することが正しいのか/タイミングなのか、というそもそも論についての言及でした。


今回は、カスタマーサクセスを進めるうえで立ちはだかるであろう、残る3つの"壁"について説明していきたいと思います。

カスタマーサクセスの津波が来た際に日本企業の多くが直面するであろう『4つの壁』

① サブスクリプション化の壁 (前編の記事)
② ハイタッチ至上主義の壁
③ 代理店モデルの壁
④ おもてなし文化の壁


【壁②】ハイタッチ至上主義の壁

いつのころからか「営業は足で稼げ」という言葉が一般化したように(最近はそうでもないかもしれませんが)、日本企業においては、ハイタッチモデルが顧客応対の中心となっていると言っても過言ではないでしょう。


そのため、カスタマーサクセスにおいても、まずはハイタッチをどうするか、ハイタッチから始めよう、となる企業が多い印象です。しかも、それを一部の重要顧客だけでなく、なるべく多くの顧客に展開する、となりがちです。このアプローチが何をもたらすか。端的に言えば「低ROI」です。カスタマーサクセスをROIで測るべきでない(もしくは後からついてくる!)、という別の議論はさておき、多くの顧客にハイタッチベースでサクセスを届けることは、コスト観点で持続的ではありません。


現在日本とカスタマーサクセス先進国アメリカの大きな違いの一つに、国土の広さがあります。国土が広く、移動コストも大きいアメリカでハイタッチを貫き通すのは至難の技であり、必然的にデジタル・データファーストのテックタッチと真剣に向き合わざるを得ないという背景があったと推察されます。一方、日本はこれまでハイタッチでなんとかやってくることができた。しかし、サブスクリプション時代、向き合うべき顧客の数が増え続ける(のが一定望ましい)中、テックタッチ、つまりデジタル・データファーストでのアプローチは不可避と言えます。先般、Pulse 2019において、アメリカではデジタルファーストは一定浸透したので、改めてデジタル・データからは読み取れないリアルなヒトの温度を把握し、人間的に判断・行動するため、"ヒューマンファースト(Human first)"というスローガンが掲げられていましたが、日本においては、まずは本気でデジタル・データファーストで向き合う必要があると考えます。

【壁③】代理店モデルの壁

ここ数年来、日本のみならずグローバルの潮流の一つに、ダイレクト化があるのは言わずもがなかとは思います。ECに代表されるテクノロジーの発展・恩恵により、これまで企業が直接つながることが叶わなかった顧客、エンドユーザーと直接つながり、対話できるようになったことは非常に大きな変化といえます。カスタマーサクセスにおいても、リアルな顧客の声は、個客対応実践上、そして製品・サービスの高質化において非常に重要です。これを踏まえ、多くのSaaSベンダーは国内外を問わず、直販体制を前提とし、意識的に顧客と強くつながることに注力しています。


一方、多くの日本中堅・大企業は、いわゆる代理店モデルを活用することで成長してきている背景もあり、未だ「顧客の声」を聞くことも叶わないケースもしばしば。最近では上記潮流を踏まえ、代理店チャネルに直販チャネルを併用することもありますが、チャネルコンフリクトに見られる別の問題が発生することも珍しくありません。


カスタマーサクセスとは、当然のことながら、エンドユーザーのサクセス(そしてその結果としての自社のサクセス)を目指す取り組みなわけですが、代理店モデルを採用し、顧客獲得・維持を一任している場合においては、既存代理店と協力しカスタマーサクセスを代行してもらうのか、カスタマーサクセスを代行してくれる新たな代理店を見つけ育成するのか、はたまた代理店モデルから直販モデルのみに切り替えるのかなど、カスタマーサクセスに加え、パートナーサクセス(もしくはチャネル戦略の見直し)も重要と言えます。


顧客の声を正しく捉え、カスタマーサクセスを推進するため、自社単独で臨むのか、パートナーと協業するのか。それぞれ似て非なるアプローチであることを踏まえ、自社が取り組むべき第一手を見極めていく必要があると考えます。

【壁④】おもてなし文化の壁

日本の顧客満足(CS=Customer Satisfaction:カスタマーサティスファクション)は、欧米では顧客感動(Customer Surprise:カスタマーサプライズ)だと言われることがあります。ホテルのコンシェルジュサービスや再配達サービスが無料の日本において、顧客を満足させるには、欧米の顧客に"感動(=Wow!)"を届けるくらいの企業努力が必要だということです。その結果、顧客応対がハイタッチ中心になりがち、とも言えます。


ここで重要になるのが、サクセスの定義と期待値のコントロールでしょう。やや横道にそれますが、コンサルティングプロジェクトにおいては、まずはキックオフ会議を開催し、プロジェクトの背景・経緯を振り返り、目的・ゴールを宣言し、その実現のためのジャーニーを共有することから始めます。長期間に渡るプロジェクト、もしくは複数のプロジェクトに跨るプログラムが業務範囲の場合は、その位置づけや他との関係性も明らかにした上で業務を推進します。そして、キックオフ後は、常に進捗・課題・リスクなど可視化し、マイルストーン毎にその状況を共有する。いわゆるプロジェクト管理ですが、これを適切に行うことで、カスタマーの期待値を制御しつつ、正しく当初目的・ゴール(=CO)に着地させる、というのが鉄則です。ここで実践に際し留意したいのが、アドボカシーは最終的に個人レベルに帰結するということです。企業は個人の集合体です。従い、ファン/ロイヤル化に向けては、企業単位のサクセスを捉えつつも、個々のステークホルダーのサクセス(エンドユーザー=業務効率があがる・楽になる、導入決定者=社内評価があがる、昇給・昇進するなど)の違いを意識し向き合う必要があることも忘れてはなりません。


なお、ハイタッチ顧客であれば、これをしっかりやることが要諦ですが、ロータッチ、テックタッチでは程度問題が難しいのが実態でしょう。しかし、サクセスジャーニーを描き、ゴール到達にむけ、最適な顧客体験(=CX)を届けつつ伴走することが求められるカスタマーサクセスにおいては、個客毎でなくとも、特定セグメント毎に一定共通化したアプローチが必要(抽象度を上げると似たような期待値であることは多い)ですし、もともと期待値が高くなりがちな日本において、ファン/ロイヤルカスタマー化(=CA)(そして結果的な自社収益の向上=CG)を目指すうえでは、不可避と考えます。


ちなみに、CXの最適化、期待値コントロールにおいては、
・日頃の不平・不満・不安を解消する経験(マイナスをゼロに)
・驚きや感動を与える経験(ゼロをプラスに)
をしっかりとわけてアプローチすることが肝である、ということを補足しておきたいと思います。


CS/NPSと同じく、CESなる指標値がカスタマーサクセス界隈で用いられていることからもわかるように、不平・不満・不安を解消していない限り、"Wow"の実現は現実的ではありません。そんな余計なことに注力するぐらいなら、目の前の問題を解決してくれ、と逆に火に油を注ぐ事態にもなりかねません。顧客の目線に立ち正しく判断することが必要不可欠です。


(図1)バーチャレクスが考えるカスタマーサクセスとは

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以上、調査結果+αからの考察をご紹介してきましたが、日本のカスタマーサクセスは本当にまだまだこれから、といった状況です。もちろん弊社は、カスタマーサクセスに大きな可能性を感じ期待を寄せています。しかし、日本人は流行り物好きな節があります。この流行り物好き気質は、本質を正しく理解しないまま、手段の目的化を進めてしまう傾向があります。そして、その結果、思ったような成果があがらず、忘れられていくという展開もなくはない認識です。


カスタマーサクセスの意義を信じる一員として、カスタマーサクセスにおける"手段の目的化"リスクを回避するために、前提知識・認識も正しく共有すること。いわば弊社が翻訳した"青本"を読む前の準備から、読んだ後の実践に至るまでサポートすること。これが"青本を出版した会社・訳者としての使命だとも考えています。


我々バーチャレクスは、今後もカスタマーサクセスに関する調査・分析を進め、日本のカスタマーサクセスの実情を発信・共有し、SaaS業界のみならず様々な業界での成果創出に貢献していきます。

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執筆者紹介

常務執行役員
ビジネスインキュベーション&コンサルティング部 部長
森田 智史(もりた さとし)
2013年に中途で入社。前職より、CRM関連に限らず、新規事業策定・戦略立案案件や、システム構築案件など、 幅広いテーマのコンサルティング案件に従事。 2017年から現職。現在は、コンサルティング案件全般を所管すると共に、 自社デジタルマーケティング領域の事業拡大の他、RPAソリューション等新規事業開発にも従事。2018年6月に出版した『カスタマーサクセス ー サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則』の訳者であり、カスタマーサクセスに関するコンサルティングや講演なども行っている。

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