日本におけるカスタマーサクセスの『壁』とは? -前編-

japan-cs-wall-1_tobira.jpgバーチャレクスがアイティクラウドと共同で行ったカスタマーサクセスに関する実態調査について、これまで3回にわたってその結果を公開してきましたが、本稿では調査結果を取り纏める過程で多くの方々と意見交換したり、6月にサンフランシスコで開催されたPulse 2019に参加したりした中で感じた私見をまとめ、紹介したいと思います。


まず、これまでの調査結果を要約すると、

  • カスタマーサクセスの認知度は3%と低く、まだまだこれから

  • カスタマーサクセスに着手するうえで、最初に直面するのは、人材と組織の問題。そしてどこから着手してよいかわからないというそもそも論

  • 小さくともカスタマーサクセスを何らか推進している企業は、立ち上がりでは悩むものの、一定自力で突破している傾向にある。そしてその多く約6割~7割がカスタマーサクセスの効果・恩恵を体感し始めている

というのが、日本のカスタマーサクセスの実情でした。


2018年はカスタマーサクセス元年だったという声も聞こえてくる中、認知度3%という数字は、なかなかに衝撃的な結果に映ったことかと思います。しかし、「やはりそんなものか」というのが初見での個人的感想でした。


有名なイノベーター理論においても、イノベーターの割合は2.5%、次のアーリーアダプターが13.5%、計16%を超えると"普及"フェースに入ると言われています。現在の日本においてカスタマーサクセスをリードされている(3%の)方々は、SaaSベンダーを中心に、カスタマーサクセスの成否が自社生存率を左右する業界の方々であり、他業界のプレイヤーを見かけることは多くありません。裏を返せば、カスタマーサクセスがより認知され、普及するうえでは、イノベーターであるSaaS業界のみならず、それ以外での取り組みが進む必要があります。そしてその可能性は、もうすぐ目の前まで来ている認識です。"サブスクリプション化"の波です。


GainsightでCOOを務め、本家"青本"の著者の一人でもあるダン・スタイマン氏とPulseで話をした際、「アメリカでもサブスクリプションの波がまず来た後、カスタマーサクセスの津波が到来した(Subscription 1st, Customer Success 2nd Tsunami)」というコメントがありました。日本においては、2018年後半からサブスクリプションという言葉がカスタマーサクセス以上に取り上げられ、まさにサブスクリプション元年と言っても過言ではない盛り上がりを見せた印象です。これを踏まえると、遅かれ早かれ日本においてもカスタマーサクセスの津波はやってくる、それは時間の問題だ、ということを強く感じます。


本当の意味でカスタマーサクセス元年を迎える(元年とは何かはさておき)上で、既に取り組みの進むSaaS業界を除き、日本企業の多く、特に中堅・大企業が直面するであろう4つの"壁"について解説したいと思います。いずれも、日本企業の現状及び商慣習ゆえの壁と言えます。

カスタマーサクセスの津波が来た際に日本企業の多くが直面するであろう『4つの壁』

① サブスクリプション化の壁
② ハイタッチ至上主義の壁
③ 代理店モデルの壁
④ おもてなし文化の壁


【壁①】サブスクリプション化の壁

1つ目の壁は、カスタマーサクセス前、そもそものそもそも論になりますが、いわゆる"物売り"からの脱却です。上述した通り、カスタマーサクセスが注目されるようになりつつあるのは、日本企業が「サブスクリプション」化に舵を切るようになったからに他なりません。「所有から利用へ」の消費者意識の変化など、企業・ビジネスを取り巻く環境が大きく変化する中、従来の「売り切り」型から脱し、継続/安定的に収益を創出し続ける「サブスクリプション」型を模索する動きが活発化しています。


しかし、ことはそう簡単ではないのが世の常。このサブスクリプション型への転換は、単なる販売・課金形態の変更ではなく、消費者・顧客を中心に据えたビジネスモデルへの変革そのものであり、"物売り"を是としてきた企業風土、そしてそこに属する個々人の行動様式を大きく変える必要があります。サブスクリプション化の鉄則について、ここで細かに言及することは避けますが、多くの場合、財務・管理会計的な影響含め、既存ビジネスの延長線にあるレベルでの変革ではないことは理解しておかなくてはならないでしょう。


もちろん、SaaS・サブスクリプション化することが全ての企業にとって正しい選択肢とは限りません。しかし、仮にその転換が自社戦略として正しい場合、安直に「カスタマーサクセス」に着手するのではなく、まずは、サブスクリプションビジネスとはなんたるかを正しく理解し、そしてそれを自社で進める際のそもそものビジネストランスフォーメーションの方向性やその企画・計画策定に注力すべきでしょう。カスタマーサクセスは、その取り組みの一部です。「売り切り」から脱却するには、製品・サービスなどそもそもの商材のあり方・ターゲット・提供価値(もし現状マルチプロダクト状態なら諸々難易度が上ります:マルチプロダクトの壁。これもいずれどこかで触れたいと思います)、その販売・提供の方法、機能としてのカスタマーサクセス、それらを推進する組織のあり方に、個々に求められるマインド・スキルセットなど、様々なレベルで大小様々に変えていかなくてはなりません。結果、リソース制約がある場合(なければ全て並行すれば良し)、カスタマーサクセスは二の次、三の次となる可能性もあります(実際、サブスクリプション化したとしても、受注できなければ、"カスタマー"は生まれず、カスタマーサクセス云々ではなくなる。従い、まずは、マーケ・セールスに注力し、新規獲得だ、となるなど)。


なお、ビジネスが顧客ありきである以上、概念としてのカスタマーサクセスは、SaaS・サブスクリプションモデルだけでなく、あらゆるビジネスに適用されるべき思想です。つまりここでお伝えしたかったことは、サブスクリプション化するかどうかに関わらず、カスタマーサクセスに着手する前段・前提が揃っているか、そのタイミングかどうかの見極めが重要だということです。10の原則の中に、「トップダウンで進める」という項目がありますが、まさに正しい経営判断が必要だ、ということでもあります。決して、カスタマーサクセスをやらなくて良い理由を述べているのではありません。カスタマーサクセスは必須です。カスタマーサクセスをより効率的・効果的に進めるうえで、「スモールスタートでもやってみる」、という調査結果からの示唆を正しく理解いただくための"補足説明"として留意いただければと思います。


(図1)カスタマーサクセスのステップ

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次回の後編ではあと3つの「壁」、
② ハイタッチ至上主義の壁
③ 代理店モデルの壁
④ おもてなし文化の壁
について説明していきたいと思います。


>>後編につづく

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森田智史bic_プロフィールフォト.jpg

執筆者紹介:

執行役員

ビジネスインキュベーション&コンサルティング部 部長

森田 智史(もりた さとし)


2013年に中途で入社。
前職より、CRM関連に限らず、新規事業策定・戦略立案案件や、システム構築案件など、 幅広いテーマのコンサルティング案件に従事。 2017年から現職。現在は、コンサルティング案件全般を所管すると共に、 自社デジタルマーケティング領域の事業拡大の他、RPAソリューション等新規事業開発にも従事。2018年6月に出版した『カスタマーサクセス ー サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則』の訳者であり、カスタマーサクセスに関するコンサルティングや講演なども行っている。

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