業務効率化や人手不足対策の特効薬として注目されるRPAの勢いは、2019年以降も衰えることがないようです。矢野経済研究所の試算によれば、2018年度の国内RPA市場規模は、前年度の2.34倍となる418億円という数字が出ています。(※1) また、2019年度以降も成長が続き、2022年度には800億円に達するとの見方もあります。しかし、手放しで「ブーム」と呼べる状況ではないかもしれません。
なぜなら、思ったほどの効果が見込めないという声や、PoCの結果から導入を保留するケースも存在するからです。RPAの導入を成功させるには、「導入=ゴール」にならないよう、適切なプロセスと勘所の理解が重要です。今回は、実際の導入事例をもとに、RPA導入の勘所をご紹介します。
政府系金融機関の情報システムを支える老舗SIerの導入事例
今回紹介する企業は、30年以上の歴史を持ち、情報システムの保守・運用業務を主な事業とする老舗SIerです。同企業では、政府系金融機関の基幹業務システムの運用・ヘルプデスク業務における業務効率改善が課題となっていました。RPAによる自動化以前にも改善には取り組んでいたものの、ダブルチェックの工数が増えるなど、目に見えた効果は得られなかったそうです。
公共性の高いシステムでは、効率よりも実績が重視される傾向にあります。業務プロセスの見直しに大きく舵を切れないのは、致し方ないことかもしれません。20年以上も粛々と遂行されてきた業務を一新するということは、現場に大きな負担を課し、混乱を招くことがあります。また、社員の心理的抵抗が大きければ、かえってミスを増やしてしまう結果になりかねません。
しかし、同企業では20年にわたる「慣習」を打破し、適切な導入プロセスを踏むことで、RPA化を成功させました。具体的には、定型業務を中心にRPAによる自動化を推進したところ、「年間作業時間の7割が削減」されたとのこと。まさに典型的な成功事例と言えるでしょう。一体どのような手順で導入を進めたのでしょうか。具体的に見ていきましょう。
RPA導入の目的
・20年間変わっていなかった運用業務の改善および自動化
・手作業ゆえに発生していたミスの削減と業務品質の向上
業務課題
・ExcelやPDFの内容を手作業でコピー&ペーストするといったアナログの作業が業務負荷を高めている
・「決められたことを決められた手順で行う」という暗黙のルールがあり、業務効率・品質向上の妨げになっていた
RPAツール選定
・技術的なハードル(プログラミングなど)に対する不安があった。また、明確な選定基準を持っていなかったことから、専門企業に選定を依頼した。
・操作性や拡張性の高さ、フローチャートベースで「やりたいこと」「あるべき業務の姿」を設計できる点を評価し、「UiPath」に決定。
RPA導入までのプロセス
- 業務一覧と業務手順から、RPA化を見据えた優先順位付け
- 実現化が容易なものからパイロット版を作成し、効果を測定して数値化
- RPA化に向いた業務、向いていない業務の勘所を掴む
- パイロット版の開発と同時に、社員への啓もうと教育を推進
- 導入した1部署で50ほど業務を洗い出し、25本程度のシナリオを作成
- 自動化対象業務の決定...「障害チケット集計「ワークフロー申請時の添付資料作成」「顧客問い合わせ情報集計」「各種ログ集計」「週次・月次報告資料集計」など
導入後の成果
・旧環境では年換算ベースで2350時間だった作業時間が、RPA化により700時間にまで短縮された。
・削減時間(年換算)は1649時間。削減率は70.19%に達した。
・手作業のミスが減り、ミスに対する現場社員プレッシャーも減った。数値に表れにくい「品質向上」や「業務負荷軽減」にも貢献している。
・社員が自発的に業務自動化を意識する土壌ができた。
RPA導入プロジェクトを牽引した同企業のCTOは、「数値よりも"目に見えない効果"を重視している」と語っています。つまり、作業時間の削減よりも「業務品質の向上」や「現場社員のストレス軽減」を達成できた点が大きな成果だ、との認識を示しているのです。業務品質の向上は顧客満足度へ、現場社員のストレス軽減は社員のモチベーション向上へと繋がっていきます。社員のモチベーションは、さらなる業務改善のヒントを生む「土壌」です。また、顧客満足度の向上は企業の信頼性を向上させ、ビジネスの持続的な成長に繋がるでしょう。RPA化の成功は、企業の内外にシナジーを発生させるきっかけになると言えるのではないでしょうか。
RPA導入を成功させるための勘所
前述の導入事例を踏まえ、RPA導入を成功させるための勘所をまとめると、以下のようになるでしょう。
適切なツールの選定
ツールの選定では、機能はもちろんのこと、トレーニングやノウハウの吸収が容易かも重視すべきです。今回選定した「UiPath」は、オフィシャルのトレーニングや、インターネット上でのコミュニケーションが充実しています。また、国内に、トレーニングを含めた包括的な導入支援サービスを提供できるベンダーが存在していることも重要です。
形にしやすい業務からテストし、積極的にPoC(実証実験)を心がける
現場社員の声をベースにしながら、「対象業務の選定」「パイロット版の作成とテスト」「フィードバック」をこまめに繰り返したことが、的確な自動化につながったと言えるでしょう。
現場社員への教育、啓蒙活動をできるだけ早い段階から行う
今回の事例では、現場社員への「教育」にウェイトを置いています。セルフトレーニングに活用できるコンテンツを作成し、社内講習会と外部の講習会(バーチャレクスコンサルティング主催)を併用したとのことです。また、教育はスキーム化して何度も繰り返すことで、社員への定着を図りました。このように、早い段階から教育にコストを投じたことが、スムーズなRPA化への道を拓いたと言えます。
入念な業務分析、洗い出し
数値ベースだけではなく、「マニュアル化されているがやり方が変わっている業務」「そもそもマニュアル化されていない業務」をあぶりだすため、現場社員へのヒアリングを何度も繰り返したとのことです。現場社員だけが認識している隠れた業務や口頭でのみ伝えられている属人的な業務にまで調査を広げたことが、功を奏したと言えるでしょう。
経営幹部の積極的な関与と主導
本事例では、CTOが主催する報告会を定期的に開催していたそうです。この報告会では、現場社員が考案した自動化シナリオのプレゼンとデモンストレーションが行われたとのこと。経営幹部が現場と一体になり、RPA導入を推進しています。
コンサルティング企業の活用
コンサルティング企業の選定では、「ひとつのツールに依存していないこと」「公平な第三者的立場からの助言が可能なこと」「ツール導入をゴールにしない姿勢」を重視すべきでしょう。また、チェンジマネメジメントやカスタマーサクセスを理解し、業務分析・課題抽出から導入後の運用まで、「伴走型のサポート」を提供する企業であるかも重要です。
まとめ
今回は、公共性の高い情報システムの運用・保守を手掛ける老舗SIerの事例をもとに、RPA化を成功に導くための勘所を紹介しました。現状のRPAは、「業務の効率化と品質向上のためのツール」との認識が先行しています。もちろん、これは誤りではありません。
しかし、将来的にRPAによる自動化が一般的になれば、「RPA化を前提とした業務設計」も増えてくるでしょう。当然のことながら、RPA化を前提とした業務の自動化は、これまでよりも少ないコストで実施できます。こういった好循環が生まれれば、これまで自動化を断念していた業務にも、積極的に取り組むことができるでしょう。
この発想を経営層だけでなく、現場社員にも広めるためには、ノウハウと実績を積んだコンサルティング企業のサポートが有効です。当社では、クライアントのRPA導入効果拡大をサポートするため、クライアントのゴール(成功)を見据えた公正かつ的確なコンサルティングを行っています。
また、RPAの導入のご支援に加えて、豊富な導入経験を持つ講師によるワークショップも開催しております。RPA化における活きたノウハウをハンズオンでお届けし、内製化のサポートも可能です。