今年3月に私どもが実施したカスタマーサクセスに関する調査の結果、日本国内で「カスタマーサクセスが何かをよく知っている」と回答した人はたったの3%。日本では認知すらまだままならない「カスタマーサクセス」ですが、アメリカでその市場は年々拡大しています。
去る5月21日~24日の4日間、世界最大規模と言われるカスタマーサクセスのイベント、『Pulse(パルス)2019』がアメリカ・サンフランシスコで行われました。主催はカスタマーサクセスソフトウェアベンダーの『Gainsight(ゲインサイト)』。本イベントは今年で7回目の開催です。GainsightのCEO、Nick Mehta(ニック・メータ)氏は「Pulse Is a Community, Not a Conference(Pulseはカンファレンスではなく、コミュニティ)」と表現しています。本記事では参加レポートとして、当"コミュニティ"の様子を日本の皆様にも簡単にご紹介したいと思います。
■会場サイズも参加者数も年々スケールアップ
『Pulse 2019』会場となったモスコーニ・センターは、大手IT企業がカンファレンス等を行うことで有名な場所。開催7回目となる今年初めて、このモスコーニ・センターでの開催が実現したそうです。(昨年まではサンフランシスコではなくオークランドで開催)
Day1となる21日は、Pulse Academy Liveと呼ばれるセッションが終日行われました。これはカスタマーサクセス業務入門者から上級者まで、自分のレベルに合わせて受講できるトレーニングプログラム。基調講演、ワークショップ、質問セッションなど、様々なコンテンツが用意されており、チケットはSOLD OUTでした。
Day2の22日から本格的なセッションが始まりました。サンフランシスコは快晴ながらも気温が10℃前後とこの時期にしては寒い日でしたが、朝の8時からメインホールは音楽フェスさながらの演出と熱気に包まれていました。
CEOのNick自ら出演のオープニングムービーでセッションがスタート、イベント参加者は年々増えており、アメリカ国内のみならず、アメリカ以外の世界各国からもカスタマーサクセスに携わる人たちが集まってきているとのこと。
(Pulse 2019 General Session資料より)
日本国内ではこのPulseというイベント自体がほとんど知られていない状況ですが、感度が高いカスタマーサクセス担当の方たちが日本からも10数社30名ほど参加されていました。
■米国内で拡大するカスタマーサクセスジョブマーケット
盛り上がりを見せている業界であると言えど、セールスやマーケティングなどに比べてはまだまだ歴史が浅い領域であることから、カスタマーサクセスに携わる人たちは自身の取り組んでいることが正しいのかどうか不安になったり、相談する相手がいなくて孤独を感じたりという状況が生まれやすくなっています。Nickも幾度となくステージ上から「Who's excited!?」、「Who's fired up!?」、「You are not alone!」とオーディエンスに向かって声をかけて会場を盛り上げていたのですが、このようなイベントが関係者への壮麗な啓蒙とモチベーション促進の場となることを改めて感じさせられました。
これまで過去Pulseに参加した人から伝え聞いていた「熱がすごい」という状況を自分が実際に体感した後は、「日本でもこれと同じ熱量を生みだす」という大きな課題が目の前に立ちはだかるのですが、実現までにはまだまだ時間がかかりそうです。
Nickのプレゼンの中で、彼自身も著者の一人である「Customer Success」の書籍(アメリカではカスタマーサクセスのバイブルとも呼ばれている)のブラジルポルトガル語訳版、そして弊社が翻訳を担当した日本語訳版も会場の大スクリーンで紹介されました。
あとで聞いたところによると、売上部数でいうと本家英語版よりも日本語版の方が売れているようです。日本国内での実態としてはまだ広まっていないものの、興味を持っているという人は多いという事でしょうか。
次に紹介されたのはビジネスSNS、LinkedInによるデータです。LinkedIn上に掲載されているCSMs(カスタマーサクセスマネージャ)の総数は2015年から2018年で8倍増、また米国内では「2019年最も将来性のある仕事ベスト15」に「カスタマーサクセスマネージャー」職がランクインしています。なお、2018年の時点でカスタマーサクセス職に就く人の中で女性の割合は48%だそうです。
実際に登壇者の半数も女性、参加者の中でも幅広い年齢層、国籍の女性は多く、彼女たちの溌剌とした姿が同じ女性としてとても印象に残りました。様々な方面の知識と能力が必要とされるカスタマーサクセス職ですが、特に女性が得意とするコミュニケーションスキルが大いに活用できるフィールドなのかもしれません。
■Gainsightが掲げる「20/20」戦略
少しずつ歴史が刻まれ始めたカスタマーサクセスという概念。2010年代のカスタマーサクセスを振り返ると以下のようにまとめられます。
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New Organization(新しい組織の立ち上げ)
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Churn Focused(焦点はとにかくチャーン(離脱)防止)
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Do What It Takes(チャーン防止のために必要なことは全部やる)
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Driving Usage/Adoption(まずは今ある製品の活用・定着を促進)
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Trial And Error(試行錯誤)
そして今年のPulseは「Customer Success 20/20」というテーマが掲げられていました。
「20/20」とは、英語で正常視力、よく見える、という意。来年の2020年ともかけているのでしょう。今年Gainsightは、カスタマーサクセスの位置づけを企業内の1ファンクションから、企業内を横断するより壮大で全体的な戦略、もしくは収益創出の基盤にまで引き上げることを視野に入れています。
この20/20戦略においては、今後のカスタマーサクセスは以下5つの方向に向かっていくとのこと。
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Product Experience Takes Center Stage(製品体験が中心になる)
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From Customer Success to Customer Growth(顧客の成功から、顧客の成長へ)
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Human-First Leadership(ヒューマンファーストのリーダーシップ)
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Operationalizing Outcomes(運用可能な成果)
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Customer Data Infrastructure(顧客データ基盤)
それぞれの詳細については別記事にてご紹介したいと思いますが、この方向性を踏まえ、彼らが既存のGainsight CSに加えて新たにリリースた4つの製品について、先に触れておきたいと思います。
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Gainsight PX(Product Experience)
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Gainsight RO(Revenue Optimization)
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Gainsight CX(Customer Experience)
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Gainsight CDP(Customer Data Platform)
正確には「Gainsight PX」は、Pulseを待たず、2月にリリースされています。青本の10の原則の中で、「本当に拡張可能な差別化要因は製品だけだ」と謳っているように、製品力自体を強化することがカスタマーサクセスの鍵と言えます。そしてこの製品力強化には、カスタマーサクセスチームをサポートするGainsight CSのような仕組みが製品チームにおいても必要不可欠であり、それを形にしたものと言えるでしょう。
■インタラクティブな仕掛け、参加者同士のコミュニケーション
4日間で開催されたセッションはその数約130、人気のセッションは立ち見が出るほどの盛況ぶり。会場内ではプログラムや地図、アンケートなどの紙が配られることはほぼありませんでした。参加者は専用アプリでセッションのタイムテーブルや詳細を確認し、自分専用のタイムテーブルを作ることができました。
また、セッション内ではトピックに応じて参加者向けのPolls(投票)や各セッションごとの最後に設定されるQ&Aの時間、これらは全てPulseアプリ内から「Sli.do」というQ&A/Pollingプラットフォームを使って行われます。Pollsでは自分が受けているセッションを選択すると質問に対する投票が選択することでき、その結果はリアルタイムでスクリーンに映し出されます。
Q&Aの時間も、アプリから登壇者への質問を入力すれば、その質問がそのままスクリーンに映し出されます。自分以外の人が書き込んだ質問内容もアプリ内で確認することができ、「それ私も聞きたい!」という質問にイイねすると、その数(=その質問を聞きたいと思っている人数)がリアルタイムで反映され多い順から上位に表示されるので、聞きたい人数が多かった質問項目順から登壇者に回答してもらうことが可能なのです。
いずれのしくみも言語のハンデがある外国人にとってもハードルが低く、文字で認識ができるため内容が理解しやすいので、気軽に参加できる良いシステムだと感じました。登壇者が一方的に話すのではなく、とてもインタラクティブにセッションが進められる点も素晴らしかったです。
セッション以外には、会場1Fには展示スペースがあり、今回のスポンサー企業のブースが並んでいて来場者からの質問に答えたり、製品デモやサービスの説明を行うエリアとなっていました。ここには「カスタマーサクセス」を実現するためのジャーニーにおいて企業が活用できる製品やサービスが紹介されていました。日本ではあまり聞いたことのない企業もたくさんありました。
なおGainsightは昨年、業界初のオフィシャルパートナー制度をローンチしており、カスタマーサクセス領域のエコシステム形成にも力を入れています。
ちなみにこの展示エリアの一番奥では朝食、昼食(ランチボックス)が提供されていました。参加者は会期中、会場の外へ移動したり食事難民になることなくセッションに集中できますし、食事をしながら参加者同士の親睦を深めたり、ビジネスミーティングを行うことができます。
また、同じく1FにはフォトスポットやSNS活用エリアも用意されていました。
参加者がTwitterやInstagramに「#pulse19」とタグ付けして写真をアップすると、このエリアに設置されたデジタルプリンターからその写真がステッカーとなって自動でプリントされてくるのです。
このステッカーは持ち帰ってもよし、そのままパネルに貼り付けたままでもよし、出力されたステッカーはスタッフが4日間かけてウォールの黒い台紙にぽつぽつと貼って行き、最終日にはサンフランシスコのランドマークであるゴールデンゲートブリッジのモザイクアートが現れました。
こんな感じになっています。
その他会場内には卓球台やチェス、ゲームなどのアーケードコーナー、マッサージエリア、子犬譲渡会コーナーなども設けられていたり、また初日にはウェルカムレセプション、3日目にはシティホールを貸し切ったスペクタキュラーパーティーなど、参加者同士が4日間セッション以外でも交流し、楽しめる様々な工夫や仕掛けが施された構成となっていました。
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