消費者の間でタブレット端末の普及が進むにつれて、ビジネス領域でもタブレットを導入する動きが広がりつつあります。しかし、ビジネスシーンでの活用はまだまだ限定的で、セールス担当者が訪問先や展示会で見込み顧客にパンフレットやグラフを提示する、店舗で来店者の興味を引くような動画や写真を見せたりするなどPCの代替としての接客ツールに留まる、目新しさ優先の試し使いが多い印象です。 ですが近年、現場の課題を解決する活用の本格化を進める実例も増えてきています。
ここでは、タブレットを顧客管理(CRM)として活用した企業の事例をもとに、どのようなメリットがあるのかを考察してみたいと思います。
1.データ活用にするセールス活動の効率化:ロシェ製薬の取組み事例
F. Hoffmann-La Roche社はスイスに本社を構えるグローバル製薬企業です。Rocheは自社のCRMシステムと連携可能なiPadを営業担当者たちへ配布し、セールス活動の更なる効率化を図りました。
タブレット活用の目的は以下の2つです。
・セールスチームの生産性向上
・顧客の関係の深化、ロイヤルティ醸成
CRMシステムに直接アクセス可能なiPadアプリを用い、セールス担当者はオフィスの外からでも顧客データにアクセス出来るようになりました。
タブレットの導入により、
・セールス担当者が移動中に次訪問先の最新コンタクト情報(誰がいつ会っているのか。最新の注文情報など)を確認できるようになり、商談を切り出しやすくなった
・過去の購入履歴(製品名や購入日、購入数、使用年数、型番など)を確認出来るため、近々補充・交換が必要そうな顧客に即座にアプローチすることができるようになった
・顧客との商談中もCRMデータを参照出来るため、臨機応変に営業トークを変えられるようになった
・予定や期限の迫ったタスクのお知らせが表示されるようになり、メール送付やアポ獲得、報告書提出などのタスク漏れが減少した
などの成果が報告されました。
ノートPCでもある程度同じことが可能ですが、PCを開くためのスペースが必要だったり、わざわざカフェに入る必要があったりと、少々手間が発生します。その点、タブレットはPCと同等の画面サイズを保ちつつ、場所を選ばず利用することが出来ます。
2.入力作業の効率化:興能信用金庫の取組み事例
石川県を拠点にビジネスを展開する興能信用金庫は、2013年に新規CRMシステムを全店舗展開し、そのシステムと連携可能なタブレットを全営業員/渉外担当員105名に配布しました。
主な目的は活動記録、交渉内容の登録ミス、抜け漏れ防止です。信用金庫の営業活動は多岐にわたるため、活動内容を帰社してからレポートする仕組みだと前述のような問題がよく起きていました。そのため、タブレットを活用し、出先での営業記録の登録・更新出来るようにしました。
タブレットの導入は入力データの記入漏れ防止、精度向上だけでなく、
・緻密な情報をもとに次のアクションを判断しやすくなった
・上長が個々の社員の正当なパフォーマンス評価をしやすくなった
・ 有効な営業アプローチを見つけやすくなり、全社展開すべき営業のベストプラクティスを選定しやすくなった
・入力画面の一画面化により、報告作業が軽減された(以前は複数枚の報告書+手書きでの提出)
といった効果もあがっているとのことです。
情報は時間を空けず、即座に記録されるほど精度が高くなります。場所を問わず、大きな画面で簡単に操作できるというタブレットの強みは、データの参照同様にデータの入力でも発揮されます。
3.店舗接客でのデータ活用:株式会社ファンケルの取組み事例
大手化粧品・健康食品製造販売企業のファンケルは、購買履歴や問合せ記録などの顧客データの管理がチャネルごとでバラバラであるという課題を抱えていました。
そのため、2009年から顧客情報管理に関する取組みを始め、あらゆるチャネルの顧客データを集約・一元管理し分析できるシステムを導入しました。これは各支店のPCでクロスチャネルの顧客データや分析結果を参照し、個人個人に最適な商品を勧めることを可能にしましたが、店舗での活用に際してはまだ課題が残っていました。
ファンケルの店舗では、お客様が自ら棚から商品を選び、レジにもっていく方式を採用しているため、店員はカウンターを離れて接客します。そのため「前回買ったのと同じ色の口紅が欲しい」などの要望を受けた際には、PCのあるカウンターまで戻ってデータを確認せねばならず、お客様を待たせてしまっていました。
そこでファンケルは2012年、店員の接客品質・効率の向上のため、全国177の店舗にタブレット端末の導入しました。店員は手元の端末ですぐにお客様の購買履歴を調べることができるため、「前回買った口紅はこちらですね」といった過去購入商品の迅速な照会や、購入日時などから「そろそろファンデーションの買換え時期かと思いますが、残量はいかがですか?」と購入を促したり、「こちらの乳液は以前にお買い上げ頂いたファンデーションと相性が良いですよ」とクロスセルを実施したり、一人ひとりに合った接客を柔軟に実施できるようになったとのことです。
CRMにおけるタブレットの導入メリット
上記事例から、CRMにおいてタブレットを活用することで:
・営業活動の最適化
蓄積されたデータを活用し、アプローチ先の選定や顧客に合った最適な提案の実施に役立ちます
・データ入力コストの削減
入力データの精緻化はもちろん、画面の設計次第では入力作業の省力化も実現可能
・店舗接客の品質向上
データを確認しながら接客することで、より一人ひとりに適切な商品が提案できる
上記でご紹介した以外にも、フィールドエンジニアなどカスタマーサポートの領域での活用事例なども出てきており、タブレットの活用はどんどん普及していくでしょう。
自社の業務でも上記のような課題があれば、タブレットでの解決可否について検討してみるのも良いかもしれません。
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