現代のカスタマーサポートには、優れた顧客体験を提供し、顧客ロイヤリティを維持するというミッションが課されています。このミッションを達成するためには、顧客の状況や商品の特性にあったサポートを提供していかなくてはなりません。
一方で、「窓口によって顧客対応を変えると、業務の煩雑さが解消されない」とい課題に悩む企業は少なくないようです。この背景には、体制やシステムが縦割りであり、部門やチーム間の情報連携がうまく取れていないという事情があります。
こうした課題を解消する方法のひとつが、CRMによる顧客情報の一元化です。縦割りの組織と、それに伴う情報連携の甘さを、CRMが持つ優れた顧客管理機能で解決することができます。
今回は、CRM導入によって「縦割りのシステム」の弊害を解消し、対応工数の削減や顧客満足度の向上につなげた事例を紹介します。
1. システムが統一されておらず情報共有コストが高い~システムリプレイスの背景
総合教育企業として知られるA社は、資格取得などに代表される個人教育事業や法人研修事業、出版事業などを手掛けています。また、近年は建築士関連や電機関連など時代のニーズに合わせた実務的な資格講座も提供しています。これら多種多様な講座への受講申し込みや問い合わせ対応は、2部署4グループから成るカスタマーサポートが担当していました。
①カスタマーグループ(新規受講相談窓口)
見込み客からの受講相談、各種問い合わせの対応業務
②受付グループ(各種申込、問い合わせ窓口)
インターネット申込み、郵送申込に関する各種問い合わせの対応業務
③添削・給付金グループ(通信講座受講生の添削、給付金に関するサポート)
通信講座受講生の添削物処理、教育訓練給付制度に関する各種問い
合わせの対応業務
④通信講座対応グループ(通信講座受講生サポート)
通信講座受講生への教材発送、操作等の各種問い合わせの対応業務
これら4グループでは、商材や顧客が異なることもあり、業務で使用するシステムやツールが統一されていない状況でした。
A社カスタマーサポートの旧システムイメージ図
顧客対応の「履歴」が見えづらく情報共有コストが高い
使用するシステムやツールが統一されていないことで、以下のような問題が発生していました。
・窓口間の情報連携がスムーズに行われない
各窓口で使用するシステムやツールは一部共通しているものの、データ自体は相互連携ができていない状態です。したがって、同一の顧客が複数の窓口に関連する問い合わせを行った場合、窓口同士でスムーズな情報共有ができない状態が続いていました。具体的には、実際に別の窓口の担当者のもとを訪ね、口頭での引継ぎを繰り返す「アナログな状態」でした。
・顧客の行動履歴が把握しにくい
A社の顧客は、ある講座で受講生になった後に、別の講座へも申し込みを行い、リピーターとなるケースがあります。このとき、顧客は複数の窓口を行き来することになります。しかし、各窓口で使用するシステムやツールが統一されていないことから、「この顧客が、どういう経路で何を問い合わせたのか」「どういう経路で顧客になったのか」という「行動履歴」が見えない状態であったとのこと。実際には各システムを丁寧にチェックしていくと把握できるのですが、顧客行動の可視化という点では大きな問題を抱えていました。
・複数のシステムへの入力作業が発生する
対応履歴を含めた顧客管理が、統一されたシステムで行われていないことから、入力業務に無駄が発生していることも課題でした。例えばカスタマーサポートでは、「見込み情報管理システム」と「外部データベース」の2つに対応履歴を入力する必要があります。
2. 顧客情報の把握精度向上、データ入力工数削減など複数の効果~CRM導入後の効果
こうした問題を解決するために、A社ではバーチャレクスのCRM「inspirX(以下、インスピーリ)」の導入を決定しました。当初の改善要望としては、以下4つが挙げられていました。
・各部門で個別に管理していた問い合わせに関する種々の顧客情報を統一したい
・部門間の情報連携および共有がスムーズに行われる仕組みにしたい
・実際に応対を行うオペレーターを支援する機能や集計・分析機能が欲しい
・対応履歴を複数のシステムに入力しており、業務の重複が発生しているため、効率化を図りたい
バーチャレクスではA社からの要望を踏まえ、アマゾン ウェブ サービス(AWS)をクラウドプラットフォームとするインスピーリを導入しました。
インスピーリ導入後のカスタマーサポートの仕組み
インスピーリへの移行後は、次のような効果が確認されています。
部署やグループをまたいだ問い合わせへの対応がスムーズに
グループごとに分かれていた顧客とのコンタクト履歴をCRMシステムで統一することにより、情報共有がスムーズになりました。窓口をまたいだ問い合わせは、全部署を合計すると平均数件/日程度です。そのたびに発生していたアナログな情報共有の手間がなくなり、エスカレーションがスムーズに進むようになったとのこと。さらには顧客の応対待ち時間も短縮化され、生産性と顧客満足度の向上につながったと言います。
現在A社では、カスタマーサポート全体で月間数千件の問い合わせがあり、その多くで対応工数の削減が期待できている状況です。
顧客のコンタクト履歴をマーケや販促に活かせるように
インスピーリによる情報共有が、顧客のコンタクト履歴を高精度に把握することにもつながっています。また、問い合わせ内容の履歴や顧客ごとの受講状況、入会までの流入経路などをデータとして蓄積・分析することにより、マーケティングや販促施策の参考とすることも可能になりました。
システムへの入力作業工数の削減
インスピーリの導入後は、必要な情報をCSV出力し、基幹システムにインポートすることにより、入力作業工数の削減も実現されました。複数のシステムに対して行っていた入力作業の工数を大幅に削減できています。
CRM導入準備のデータ移行に伴い、業務整理が進んだ
インスピーリ導入にあたり、旧システムから過去のデータを移行する必要がありました。この移行作業に際し、A社では業務に関するデータの再構築を行っています。具体的には、
・部門およびグループで共通する項目のとりまとめや再定義
・「同一内容・異表記」の項目を同じ表記にそろえる
・上記内容をコードとして統一する
といった作業が進められました。この作業が結果的に業務整理に結び付き、効率化につながっています。
3. カスタマーサポートのCRMとして十分な標準機能とコストパフォーマンスが選定の決め手
A社にインスピーリの選定理由を伺ったところ、以下3点を挙げていただきました。
目的を達成できる標準機能
選定理由のひとつ目として、インスピーリの標準機能が必要十分であったことを挙げていただきました。A社では、「4グループに分類された窓口の顧客情報とコンタクト履歴を一元化する」という要件を掲げており、インスピーリがこれを満たすことが評価されたようです。インスピーリでは、各種データ管理機能に加え、メールのやり取りを1つに統合できる機能も保有しています。A社の旧システムでは複数のメールツールを活用していたことから、この点も評価の対象になったようです。
費用対効果が良好であった
A社ではCRM選定に際して、外資系ベンダー製品を含む複数のCRMを比較しています。いくつかの製品は機能的に十分であったものの、いずれも高額であり、導入に二の足を踏む状況だったそうです。一方でインスピーリは機能の豊富さに比べて安価であり、費用対効果の高さが評価されました。導入後も、「標準機能を活用することにより課題が解決したこと」や、「カスタマイズ性に優れること」、「設定変更や機能追加を実現するためのコストバランスが良いこと」、などを評価いただいております。
付加機能が充実している
カスタマーサポートの役割が拡大していることに伴い、近年のCRMには「顧客分析」や「部署内のコミュニケーション促進」といった付加機能も求められています。
インスピーリでは、ビジュアル分析プラットフォームとの連携により、外部システムのデータを活用したダッシュボード分析が可能です。さらに、グループ内での周知・エスカレーションのためのチャット機能、コミュニケーションボード機能、メール処理やナレッジ管理のためのテンプレートなどがあり、現場担当者の負担を軽減する様々な工夫がされています。こうした付加機能が充実していることも選定理由のひとつとして挙げていただきました。
また、プラットフォームとしてAWSを採用しているというセキュリティに対する信頼性の高さも選定の理由になったようです。
4. サイロ化を防ぎ業務改善の「横ぐし」として機能するCRM
商品・顧客属性・フェーズによって窓口を分けている場合、どうしても窓口ごとにシステムを構築しがちです。その背景には、より小さなコストで顧客応対品質と業務効率化を両立しようという狙いがあります。
しかし、縦割りのシステムが顧客行動の変化についていけず、徐々に現場の負担になるケースは少なくありません。この状況を手付かずのまま放置していると、業務のひとつひとつでリードタイムが大きくなり、結果的に顧客満足度の低下を招いてしまいます。
こうした状況を打破するためには、縦割りのシステムに「横ぐし」を通し、情報連携をスムーズにしなくてはなりません。この横ぐしとなりうるのが「CRM」です。
CRMが横ぐしとして機能することで、縦割りの体制であってもリアルタイムな連携が可能になり、新たな付加価値を生むベースが出来上がるのです。
5. まとめ
今回は、大手総合教育企業であるA社へのインスピーリ導入事例を紹介しました。近年は、CRMを「顧客対応のための統合基盤」として位置付けるケースが増えています。今回のA社の事例でも、縦割りで分断され、サイロ化しかかっていたシステムを統合する役割を果たしました。
バーチャレクスでは、コンタクトセンター領域のプロフェッショナルとして、引き続き顧客のビジネスを支える機能を提供していきます。