RPA2.0の世界観の実現に向けて -後編-

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RPA2.0後編_tobira.jpg「RPA2.0の世界観の実現に向けて -中編-」では、RPA2.0実現のポイントとなる技術として「OCR(AI-OCR)」「Chatbot」に着目し、RPAとの連携事例を交えながらご紹介しました。また、RPAを「手足(作業・処理)」とすると、「OCR(AI-OCR)は"目(視認)"」「Chatbotは"口・耳(対話・発信)"」という位置づけでした。これを受け、本記事では、RPA2.0をさらに推し進めるテクノロジーとして「AI(Natural Language Generation=NLG【自然言語生成】)」をご紹介します。

RPA × AI(Natural Language Generation=NLG【自然言語生成】)」

これから訪れるであろう、RPA2.0の世界観では、RPA × AI(Natural Language Generation=NLG)の導入が進むと考えられます。ちなみに、RPAが手足ならば、AI(NLG)は「脳(解析・学習)」のような存在です。

RPA+AI.png

では、NLGについてもう少し詳しく見ていきましょう。Natural Language Generation=NLGは、日本語では「自然言語生成」と訳されます。下記は、AIテクノロジーに関する一般的分類を図にしたものです。

AIテクノロジーの分類

AIの分類.png

このように「NLG」は、言語を扱うAIの構成要素・技術といえます。ただし、NLGの実現方法(文章の自動化レベル)は、ひとつではありません。NLGは、そのレベルに応じて3つの段階に分けられています。

○基礎レベル「Basic NLG」

NLGの基本的な段階である「Basic NLG」は、「データをそのままテキスト情報に変換する」というレベルに対応しています。例えば、データベース内の「最高気温」カラムに、「10」という値が格納されているとき、ルールベースで「本日の最高気温は10℃」といった単純な文章を自動生成することが可能です。

○中位レベル「Template-Driven NLG」

Basic NLGの上位レベルが「Template-Driven NLG」です。Template-Driven NLGでは、事前に用意されたテンプレートに値を当て込むかたちで、データとルールに基づいた文章の生成が可能です。例えば、データベース内の「最高気温」カラムに「10」という値が格納されているとき、気温の前日比データを参照して補完し、「本日の最高気温は10℃です。昨日よりも2℃低い気温です。温かくしてお出かけください。」というような人間味のある文章を作成できるわけです。

○最高レベル「Advanced NLG」

NLGの最上位レベルである「Advanced NLG」は、データから意味や内容を解釈し、自動的に最適な文章を生成します。言い換えれば、「人間的な文章を完全自動で生成できる」レベルです。例えば、「最高気温」「10℃」というテキストから、テンプレートを用いることなく、「今日の最高気温は10℃です。昨日より2℃低く、例年平均よりも低い気温です。温かくしてお出かけください。」という具合に、しっかりと意味のある文章が生成されます。つまり、一般的に私たちがイメージするAI(人工知能)の働きに近いものになるのです。


NLGのレベルが上がるほど、ビジネスへの貢献度は高まります。反面、実用化へのハードルも高いのが現状です。

NLG(自然言語生成)のレベルの段階

NLGのレベルの段階.png

RPA × NLGの連携が実現すれば、これまでRPA単体では不可能だった、「データから文章を作成する」という作業の自動化が可能になるでしょう。いわば、「書ける(文章を生成できる)RPA」が実現するわけです。


「各システムから必要なデータを収集し、レポートを作成してメールで送る」という業務があるとしましょう。この業務を遂行するためには、「収集されたデータ(グラフ)を確認する」「データ(グラフ)から何が読み取れるかを考える(分析)」「分析した結果をコメントとして残す」という作業が必要でした。これらは当然、「ヒトの手によるアナログな作業」で、RPAの適用範囲に含めることができませんでした。そのため、全業務プロセスを自動化する際のボトルネックになっていたのです。


このボトルネック部分を解消できるのがNLGです。NLGを導入することで、「分析し、コメントを残す(文章を書く)」部分の自動化が可能になるでしょう。

RPA × NLGで実現可能になる業務

NLGでできる業務.png

「書けるRPA」が実現するRPA × NLGの活用シーンは?

次に、RPA × NLGの具体的な活用例として、Automated Insights(AI)社のNLGツール「Wordsmith」にまつわる事例をご紹介します。

○レポート等の分析コメントの自動生成

半導体メーカー大手の米NVIDIA社では、Automated Insights(AI)社の「Wordsmith」をNLGツールとして導入。Wordsmithを活用し、マーケティングダッシュボード「Tableau」において「レポート等の分析コメントの自動生成」を実現しました。Wordsmith導入以前の同社では、メンバーがTableauから必要な情報を読み取り、手作業でレポートを作成していました。そのため、レポート作成に時間がかかり、なおかつその品質もメンバー個々人の解釈に依存するという課題があったのです。


そこで、TableauにWordsmithを連携させ、レポート分析の基となるインサイトやレコメンド情報等を文章として生成できるよう変更しました。その結果、データのエキスパートでなくとも、ビジュアライゼーションから読み取るべき内容を理解できるようになったのです。また、レポートに書かれているメッセージの一貫性を担保できたり、自動処理が分析者の負担を軽減したりといった効果も発生しました。

○企業業績や株価関連記事等の自動生成

Wordsmithでは、「企業業績や株価関連記事等の自動生成」も実現しています。米AP通信社では、企業収支に関する記事を四半期ごとに公開しています。しかし、全米で収支を公開している企業は数千社にのぼり、人間の手では300社程度の記事作成が限界でした。しかしWordsmith導入後は、記事の自動生成機能によって、全企業の企業収支に関する記事を作成できるようになったとのこと。記事数の増加が網羅性を拡大させ、コンテンツの充実という導入効果を挙げることができました。

○"個客"別コンテンツの自動生成

また、「"個客"別コンテンツの自動生成」もWordsmithで実現しています。米Yahoo!では、スポーツカテゴリとして「Fantasy Football」というサイトを公開しています。同サイトではフットボール選手の情報や試合結果等を掲載しており、数百万人の会員数を誇っています。


しかし「ヒト」の手による執筆では、毎週のように開催される膨大な量の試合結果やその概要、まとめ記事を網羅的に作成することは不可能だったのです。そこで、試合結果に関する記事をWordsmithの自動生成に任せました。そのうえで、会員ごと("個客"ごと)に知りたい情報(お気に入り選手やお気に入りチーム、選手の移籍情報や試合情報等)を掲載するようにしました。その結果、会員の満足度が向上し、サイトの収益化に貢献するようになったのです。

その他のRPA×AI連携例

ちなみに、RPAと連携可能なAIは、NLGだけではありません。「RPA×Process-Mining」や「RPA×BRMS(推論型AIベース)」もお勧めしています。それぞれの特徴を簡単にご紹介します。

RPA×Process-Mining

「Process-Mining」とは、ERPシステム(基幹システム)などに蓄積された大量のシステムログを収集し、データマイニングによって、自動化すべきプロセスを峻別できるツールです。

RPA×BRMS(推論型AIベース)

「BRMS」とは「ビジネスルール管理システム」のことで、ビジネスルールの定義、実行、管理を行います。BRMSが「頻繁に変更されるビジネスルール」をアプリケーションから切り出し、アプリケーションの開発・運用や日常業務の効率化・簡素化が可能になります。


また、複雑な業務ルールやロジックの実装後はメンテナンスの難易度が上がってしまいます。そこで、推論型AIのサポートを受けつつ、詳細な業務ルール、ロジックを制御していくわけです。RPAとBRMSの連携は、これまで頓挫しがちだった、高難易度で複雑な業務の自動化をサポートします。

「ヒトと非ヒトとの共存」「手段ではなく目的」~RPA2.0の世界観の実現に向けて

日々変わりゆく消費者・購買者の意識に対応し続けるには、「デジタルトランスフォーメーション=DX」を意識せざるを得ない時代になりました。これからは「ヒト」ありきのビジネス/オペレーション・モデルではなく、「ヒト」と「非ヒト(RPAのロボットやAI)」が共存するモデルの構築が必須だといえるでしょう。


時代の要請を受け、RPAをはじめとした先進テクノロジーの活用が進んでいることは疑いようがない事実です。RPAについては、単体での導入(RPA1.0)が一定程度は進んでいます。また、OCRやChatbotといった周辺テクノロジーとの連携が進み、さらなる自動化・効率化を目指す段階(RPA2.0)へと移行しはじめています。さらに、AI(NLG=自然言語生成)との連携によって「考えて作業する」という流れを、ワンストップで自動化できる世界観も見えてきています。つまり「任意のデータから、意味内容を汲み取って解釈し、自動的にコメント・文章を生成する」という「書けるRPA」の浸透です。


本シリーズ「RPA2.0の世界観の実現に向けて」では、前・中・後編の全3記事にわたり、さまざまなテクノロジーを紹介してきました。「AIとは」「RPAとは」といった言葉・概念の定義は確かに大切です。しかし、もっと大切なことがあります。それは「"テクノロジーの活用は"手段"であって"最終的な目的"ではない」ということです。このことを踏まえれば、単に絶対的な性能が良いものよりも、導入効果や確実性(効果創出が見込める)が高いものを選択すべき、という判断が見えてくるでしょう。


もう少し端的に言うと、状況・目的によっては、「学習能力は優れているけれど精度・成果がいまいちな"真のAI"」よりも、「学習能力は低くても、確実に効果が期待できるルールベース・定型の"AIっぽい"もの」の活用を検討すべきかもしれないということです。


RPAをはじめとしたテクノロジーの活用においては、「何を実現したいのか」「活用・導入後どうなっていたいのか」を明らかにすることが、最も重要なのではないでしょうか。


バーチャレクス・コンサルティングではRPA+NLG「AIロボライティングサービス」をご提供しています。詳しくはお問い合わせ下さい。

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執筆者紹介

常務執行役員
ビジネスインキュベーション&コンサルティング部 部長
森田 智史(もりた さとし)
2013年に中途で入社。前職より、CRM関連に限らず、新規事業策定・戦略立案案件や、システム構築案件など、 幅広いテーマのコンサルティング案件に従事。 2017年から現職。現在は、コンサルティング案件全般を所管すると共に、 自社デジタルマーケティング領域の事業拡大の他、RPAソリューション等新規事業開発にも従事。2018年6月に出版した『カスタマーサクセス ー サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則』の訳者であり、カスタマーサクセスに関するコンサルティングや講演なども行っている。

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