RPA2.0の世界観の実現に向けて -前編-

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RPA2.0の世界観の実現に向けて -前編-

2018年は、日本国内においてRPAの認知が一気に広まり、多くの企業での導入が進んだ年だと言えるでしょう。成果が上がった事例も見られるようになってきましたが、その多くは、「RPA1.0」と呼ばれる、バックオフィス業務を中心とした、ルールベースの定型作業を自動化するものがほとんどです。
最近では、この「RPA1.0」の世界観を超え、RPAの更なる活用が模索されており、ルールベースのみならず、AIなどを利用した一部非定型作業の自動化を実現する事例・ソリューションも出始めており、「RPA2.0(class2)」として注目を集めつつあります。
本記事では進化し続けるRPAの現状とトレンド、そして広まりつつあるRPA2.0とその少し先の世界観についてご紹介します。

平成時代におけるビジネスを取り巻く環境の変化

約30年に及んだ「平成」が、まもなく幕を下ろそうとしています。この平成の間にビジネスを取り巻く環境は大きな変化を遂げました。
例えば、世界全体における「時価総額ランキング」で見ると、平成元年(1989年)にTOP10の大半を占めていたのは、日本興業銀行や住友銀行に代表される銀行や、NTT、東京電力などの日本企業でした。
しかし平成30年(2018年)のランキングでは、それら企業は全くの圏外となり、「GAFA」やMicrosoftなどを主体とした米国企業や、Top10を占めている状況です。その他、アリババやテンセントといった中国企業もTOP10に名を連ねています。

上述急成長企業の共通項は、「IT・デジタル企業」だと言うことです。では、なぜ"IT・デジタル企業"が急成長できたのか。それは、彼らが、いわゆる、「モノ」「所有」から「コト」「利用」へと、世の中の価値観が大きく変化していく中、先進テクノロジー・データを駆使し、多様化する顧客のニーズに向き合う、いわば"個客"フォーカスのビジネスを展開できたことが主たる要因といえるでしょう。

平成以前、供給<需要の時代、そして大量生産大量消費の時代においては、所有すること自体が価値でした。多くの(特に高級な)モノを所有すること=幸福であり、その実現のために良い大学に入り、良い会社で働き、稼ぐ。高度経済成長というエンジンも機能し、誰もが疑わない、ある意味で普遍的で盤石な価値観が確かに存在していました。しかし、平成以後、バブル崩壊・リーマンショックを始め、数度の震災など、経済的・生命活動的に将来への不確実性が増大する一方、グローバリゼーションの進展、テクノロジーの進化等により、情報の非対称性を克服する術を誰もが有するようになりました。すると、上述した「普遍的」だと捉えられてきた価値観に対する信頼がゆらぎ、自らにとって最適な生き方を模索する必然性が生まれ、結果として、価値観の個人化・多様化の時代が訪れます。このような背景を受け、引き続き「モノ」を「所有」することをよしとする価値観だけでなく、いつ何が起きるかわからない中で、多大なコストを事前に投じ所有するのではなく、必要なものを必要な時に必要なだけ「利用」しつつ将来に備える方が合理的である、「利用」することで得られる体験・ストーリーこそ重要であるという意識・価値観が確実に浸透し、強まっています。

この「モノ」「所有」から「コト」「利用」への価値観の変化の機微、価値観の個人化・多様化に応えるサービスを提供し、ビジネスを成立させるうえでのドライバーが「IT・デジタル」に他なりません。価値観の個人化・多様化に応え、「個客」にパーソナライズしたサービスを提供するには、人手をいくらかけたところですぐに限界がやってきます。この限界・制約の突破口こそが、IT・デジタル=先進テクノロジー(SMACS *)の活用であり、多大な投資なく、比較的安価にビジネスを立上げ・拡大することができた理由です。そして、この上記方程式に則り、確実かつ急速に成長したIT・デジタル企業がグローバル経済を牽引しているのが昨今の現状といえます。

このように、世の中の価値観や消費者のニーズの変化に対応するため、企業はIT・デジタルを適用・活用し、自社のビジネスの在り方を変革すること(=デジタルトランスフォーメーション(DX))が求められています。さらに、誤解を恐れずに言えば、人材不足が進むこれからの時代を見据え、企業が生き残るうえで向き合わなければならない命題となっているのです。

DXの方向性を端的に示す一例が「サブスクリプションビジネス」

上述の通り、DXとはAmazonやGoogleのように、先進テクノロジー及びデータを駆使し、新たなビジネスを創出するための"ビジネスモデルの変革"と言えます。このビジネスモデル変革の一例として、今年RPAと同様話題になった、サブスクリプションモデルが挙げられます。昨今、多くの企業がサブスクリプションモデルへの転換を図っていますが、これはただの一過性の「ブーム」ではなく、多くの企業が徐々に、そして確実にDXを進めている証左と考えます。
「モノ」「所有」の時代におけるこれまでのビジネスの主流は、「製品売り切り型」でした。「企業を起点」に、「製品ありき」で、「マルチチャネル」に対応するものの連携はなく、「一方通行型」で展開されていました(言い換えれば、極論、顧客がどうあろうと関係ない)。
これに対し、「サブスクリプション型」ビジネスは、全く異なるビジネスモデルです。モノそのものではなく、最適な体験を顧客に届けるため、「顧客を起点」に「サービスありき」で、「オムニチャネル」に「双方向型」で展開する必要があり、個客フォーカスの個別対応が必然必要不可欠となります。
この転換は今後のビジネス存続の明暗を分けるカギを握るものであり、この流れに乗り遅れると企業が逆選別されるリスクが生じる可能性があります。

製品売り切り型からサブスクリプション型に移行しつつあるビジネスモデル

製品売り切り型からサブスクリプション型に移行しつつあるビジネスモデル

「サブスクリプション」と聞いて、ソフトウェアなどのSaaS系サービスを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし最近では、SaaS以外でもサブスクリプション型のサービスが多く見られるようになってきています。 例えば、音楽配信や映像配信を行うAppleやNetflix、洋服やバッグなどを購買ではなく共有で利用するファッションサブスクリプション・レンタルサービスのairClosetやLaxus、そして、自動車を購入するのではなく月額制で利用できるトヨタ自動車のKINTOなどが挙げられます。

DX時代にRPA/AIが必要な理由とは

IT・デジタルを駆使しDXを推進する上では、これまで以上に膨大なトランザクション・データと向き合わなければいけなくなるため、RPAやAIなどの重要性がさらに増してくることが予想されます。例えば、顧客の状態をリアルタイムに可視化するといったことに取り組むのであれば、購買データや顧客属性といった従来の顧客情報に加え、IoTを活用し、センサーなどから情報を取得、行動データまでを紐づけて管理することが必要となります。一方で、日本の生産労働人口は減少の一途を辿り、このような業務・作業を担えるIT人材の不足は加速しています。そのため、「ヒト」に変わるリソースとして「非ヒト=RPAのロボットやAI(人工知能)」の活用は喫緊の課題と言えます。

IT人材の不足規模に関する予測

IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果

※出典:経済産業省「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」(2016年6月10日発表)

なお、2019年4月以降施行される働き方改革関連法や、2025年の崖問題**なども、この流れを加速すると想定されます。これまでの「ヒト」ありきのビジネス/オペレーション・モデルではなく、「ヒト」と「非ヒト=RPAのロボットやAI(人工知能)」が共存しうるビジネス/オペレーション・モデルを新たに構築していくことが必要不可欠となっていくと考えます。構想策定やPoC(概念実証)という「検証レベル」に止まるのではなく、RPAやAIを実ビジネスにどう適用し効果を創出していくのか、早急に手を打ち進めていかなければなりません。

RPAの現状とこれから

2018年に発表されたTransparency Market Researchの調査によると、2020年の世界RPA市場規模は約50億ドル(約5.500億円)に達し、また矢野経済研究所が同じく2018年に発表したレポートによれば、2022年度の国内RPA市場規模は2017年度比で約4.5倍となる802.7億円まで拡大すると予測されています。 RPAは、要素となるテクノロジーの観点から3つの段階で発展していくと言われており、それに応じて自動化対象となる業務も拡がります。 RPA元年以降、現在普及しつつあるRPAは、ルールベースでの単純もしくは定型作業・業務の自動化を実現する、いわゆる、「RPA1.0」の段階に分類されるものが一般的です。イメージとしては、Excelマクロによる自動化の範囲がExcel内での操作に閉じていたのに対し、ExcelだけでなくPC操作全般での自動化まで実現できるような世界観(=巨大マクロ)と言えます。

RPAの進化の3段階
RPA2.0


そして最近では、上記「RPA1.0」の世界観を超え、「RPA2.0」の段階に入りつつある状況です。具体的には、画像などの非構造化データの読み取りやデータ解析、一部判断が必要な複雑な業務など、単純もしくは定型作業・業務以上の自動化の実現も進み始めています。

この「RPA2.0」の世界観の実現に向けては、RPA単体ではなく、各種周辺テクノロジーとの連携、「掛け算」が重要です。

RPAを「パソコンを操作する身体(手・足)を代替する機能」と捉えた場合、より多くの「ヒト」の作業を自動化するうえでは、その周辺には身体を動かしたり機能させたりするために必要な、脳や目、口・耳といった器官も必要となってきます。
脳の機能はデータを解析したり学習したりする「AI」が、目の機能は文字や画像を視認する「OCR(光学的文字認識技術)」が、口・耳の機能はロボットが対話や発信を行う「Chatbot(チャットボット)」」が代替してくれます。

RPA周辺のテクノロジー

RPA周辺のテクノロジー


例えばRPAと「目」であるOCRを連携することによって、イメージスキャナなどの読み取り作業から、帳票の仕分け、システム登録といった業務をシームレスに自動化することが可能になります。その際、インプットするデータとしては、FAXや郵送などで受領した手書き帳票でも問題ありません。

また、RPAと「口・耳」の役割となるChatbotを組み合わせれば、社内外からの問い合わせに対する自動回答、自動受付、ユーザーからの情報登録・照会フローの自動化、BPOセンターでの自動受注など、これまで有人で対応していた業務の24/365運用が可能になり、コスト削減や生産性向上にもつなげることができます。

このように、RPA2.0以降の世界観実現に向けては、各テクノロジーの特徴や違いを理解し、RPAとの組み合わせで最適に運用することが非常に重要となるのです。

*Social / Mobile / Analytics・AI・Bigdata / Cloud / Security・Sensor略称。IBM社提唱

**多くの企業が基幹システムの老朽化・ブラックボックス化の解消を課題感として抱えている中、2025年には、大量のIT人材不足(基幹システムを担っていたエンジニアの退職・高齢化)や、ソフトウェア(SAP ERP)の標準サポートの終了(EOS/End Of Support)といった問題が同時発生するのが「2025年だろう」という予測が書かれているレポート。ただし、廃棄や塩漬けにするシステムなどを仕分けしながら、必要なシステムは刷新しつつ、DXを実現していけば、2030年には実質GDP130兆円超の押上げ効果が実現されるとしている

(中編に続く)


本件に関して何かございましたらお気軽にお問い合わせください。

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執筆者紹介

常務執行役員
ビジネスインキュベーション&コンサルティング部 部長
森田 智史(もりた さとし)
2013年に中途で入社。前職より、CRM関連に限らず、新規事業策定・戦略立案案件や、システム構築案件など、 幅広いテーマのコンサルティング案件に従事。 2017年から現職。現在は、コンサルティング案件全般を所管すると共に、 自社デジタルマーケティング領域の事業拡大の他、RPAソリューション等新規事業開発にも従事。2018年6月に出版した『カスタマーサクセス ー サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則』の訳者であり、カスタマーサクセスに関するコンサルティングや講演なども行っている。

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