
顧客の利便性を追求してチャネルを次々に追加した結果、コンタクトセンターの運用は複雑化していないでしょうか。
近年、コンタクトセンターでは電話に加え、チャットやメール、SMSなど複数チャネルで顧客対応を行うことが一般的になっています。その一方で、チャネルごと・部門ごとに最適なツールを導入してきた結果、システムやデータが分断され、運用の複雑化や情報活用の難しさが課題となるケースも少なくありません。
さらに、オンプレミスで運用してきたPBXの更改時期を迎え、クラウド移行を検討する中で、「せっかく刷新するならAIも活用したい」「オペレーターの負荷を軽減し、生産性を高めたい」といった声が上がることも増えています。しかし、既存環境のままではデータが分散しており、AIを効果的に活用するための基盤が整っていないという状況も多く見受けられます。
本記事では、こうした状況を想定したモデルケースをもとに、Amazon Connectを中核としたクラウドコンタクトセンター基盤への刷新アプローチをご紹介します。分断されたPBX・チャネル・顧客データをAWS上に統合し、AI活用を前提とした拡張性の高い基盤をどのように構築していくのか。段階的な移行と高度化の考え方を整理します。
※サービス名、機能詳細は2026年2月現在の内容です。機能のアップデートなどにより将来的に変更される可能性があります。
目次
業務内容と課題
このモデルケースで想定する顧客対応は、次のチャネルで展開されています。
- 電話(顧客からの問い合わせ対応中心、アウトバウンド業務もあり)
- 有人チャット(問い合わせ対応)
- チャットボット(FAQの回答が中心、一部は有人チャットへエスカレーション)
- SMS送信(キャンペーンのお知らせなど)
- Webフォーム(顧客からの問い合わせ、コンタクトセンターにはメールで連携)
- メール送受信
各チャネルはすべて別々のツールで運用されています。顧客に紐づくコンタクトデータの検索が難しく、チャネル横断のシステムの統合が求められていることに加え、データが分散しているため、AI活用に適した基盤が整っていないこと、ツールがばらばらなためにオペレーターの業務負荷が高く、生産性が向上できないことも課題になっています。
以上の課題が顕在化している状況で、オンプレミスで保有しているPBXの保守契約の更新期限を迎えることになりました。システム更改を進めるうえで、電話基盤システムをクラウド化したいとの要望や、せっかく更改をするならばAIをうまく活用することでコンタクトセンターのオペレーターの負荷を低減したいとの要望も上がり、これらの課題を総合的に解決する方法の模索が必要になりました。
各課題への対策方針
モデルケースの課題はどれもコンタクトセンターでは頻出の問題ですが、自社業務にひずみが生じないように更改できるソリューション・製品が見つけにくいために解決が難しい課題です。
こうした背景を踏まえ、電話基盤を起点にシステムをクラウドへ移行し、将来的な拡張や高度化にも耐えられるコンタクトセンター基盤を整備することを大方針として対策します。
対策の大方針
対策の大方針は、以下の3点です。
- オンプレミスで運用されているPBXをAmazon Connectにリプレースし、電話基盤をクラウド化する。
- 生成AIを活用し、オペレーター支援や業務効率化を図る。
- 電話を起点として、チャネルごとに分断されているシステムをAWS上に段階的に集約する。
まずは契約更新期限が迫っている電話基盤のクラウド化を優先し、その後、現場への負荷を抑えながら他チャネルや周辺システムを段階的に統合していく段階的なアプローチをとります。これにより、短期的な課題解決と中長期的な拡張性の両立を目指します。
1. オンプレミスで運用しているPBXのクラウド化
最も緊急度が高い課題として、オンプレミスで運用されているコンタクトセンターの電話基盤の問題があります。現行PBXは契約更新の時期が迫っており、ランニングコストを抑えられるクラウド型システムへ移行したいという要件がありました。
この課題に対し、Amazon Connectを用いたPBXのクラウド化を推奨します。Amazon ConnectはPBX、ACD、IVRといった機能を1つのマネージドサービスとして提供しており、インフラの保守・運用負荷を大きく低減できます。
また、Amazon Connectは電話だけでなく、チャット、Eメールといった複数チャネルに対応しており、将来的なオムニチャネル化を見据えた基盤としても適しています。アウトバウンドキャンペーン機能や、生成AIを活用したオペレーター支援機能など、近年のコンタクトセンターで求められる機能が標準で提供されている点も特徴です。
料金体系は従量課金制で、環境の作成自体には大きな初期費用が発生しません。そのため、まずは電話基盤のクラウド化から着手し、段階的に活用範囲を広げていくアプローチが取りやすい構成となっています。
以上の「クラウドベースのコンタクトセンターシステム」「オムニチャネル対応」「生成AI活用が可能」「従量課金制」といった特長が本モデルケースの課題と合致するため、Amazon Connectをベースにコンタクトセンターシステムを再構成します。
Amazon Connectの主要機能
2. チャネル・部門ごとに分断されたSaaSの統合
現状では、電話、チャット、メール、SMSといったチャネルごとに異なるSaaSが利用されており、運用が煩雑になっています。応対履歴がシステムごとに分散しているため、顧客対応の全体像を把握しづらい点も課題となっていました。
この課題に対しては、Amazon Connectを中核とし、AWSの各種サービスを組み合わせてシステムを再構成することを推奨します。Amazon Connectでは電話・チャット・メールといった複数チャネルの履歴を一元的に扱うことができるので、チャネルや部門ごとに分断されている顧客対応データを、共通のプラットフォーム上で扱えるようになります。
Amazon Connectでは、標準機能である「顧客プロファイル」を利用することで、顧客に紐づく応対履歴を一覧で確認できます。また、コンタクトデータはAPIを通じて外部システムと連携可能なため、既存のCRMを継続利用する構成にも対応できます。さらに、SMSを含む各種応対データをAmazon S3などに集約することで、BIツールを用いた分析や、将来的なデータ活用の基盤を整えることが可能です。
なお、電話基盤以外のチャネルについては、第2フェーズ以降で段階的に移行する方針とすることも可能です。初期投資を抑えたい/一気にシステムを移行することによる現場の混乱をできるだけ抑えたい、といった場合に段階的移行が有効です。第2フェーズ以降で段階的に移行する方針は、初期投資の抑制に加え、一気にシステムを移行することによる現場の混乱を最小限に抑えるという、運用面での最大の懸念を解消する有効なアプローチとなります。
3. コンタクトセンターにおけるAI活用
課題にはAIを活用したオペレーター業務の負荷低減も挙げられています。オペレーターの負荷低減に効果的なAI活用方法はいくつかありますが、オペレーターが効果を感じやすく、通話後の後処理時間の削減など目に見える変化が感じられやすいのは「顧客対応中のリアルタイムなオペレーター支援」や「応対内容の自動要約」といったユースケースです。
この課題に対しては、Amazon Connectと併用可能なアプリケーションとしてLive Call Analytics (LCA) を採用します。LCAは、通話内容のリアルタイム文字起こしを基盤として、オペレーター支援のためのリアルタイムサジェスト、感情分析、トピック抽出、終話後の要約生成などを提供します。これにより、オペレーターは会話内容に応じたFAQを自分で検索することなく参照できるため、「少々お待ちください」と顧客との会話を保留する頻度や時間が減り、会話をスムーズに進めることができるようになります。また、AIが下書きした要約を基に対応後の後処理をできるため、後処理時間も短縮されます。これらの効果は管理者もKPIを通して改善を実感しやすく、従業員満足度の向上も期待できます。
なお、Amazon Q in Connectにもリアルタイムサジェスト機能がありますが、2026年2月時点でAmazon Connectの機能全体を含めても日本語での要約生成には対応していないため、本モデルケースではLCAを利用することを軸に構成しています。
LCAの画面イメージ

LCAについての詳細な解説記事は今後公開予定です。
想定できる導入効果
これまでに述べた対策をすることで、このモデルケースでは以下のような効果が期待できます。
オペレーター業務への効果
- AI要約による後処理時間(ACW)の削減
LCAは通話内容の自動要約も可能です。オペレーターが手入力していた対応履歴をAIが自動生成することで、大幅な後処理時間(After Call Work)の短縮が可能になり、応対件数の向上が見込めます。また、記録品質の平準化も期待できます。
- リアルタイムアシストによる応答時間の短縮
LCAが通話中の発話内容をもとに関連情報やナレッジを即座に提示することで、会話中の情報探索にかかる時間を大幅に削減できます。結果として、応答時間の短縮、保留時間の削減、顧客満足度の向上といった効果が期待できます。
- 顧客情報・コンタクト情報の一元管理による情報把握の迅速化
顧客情報・コンタクト履歴 (*1) をAmazon Connectに統合することで、オペレーターが通話開始前に情報を参照し、スムーズに対応を開始することに役立ちます。
*1:Amazon Connectのケース機能を利用することで、顧客データとコンタクトデータを紐づけて管理することができます。別途開発により外部CRMへのデータ連携も可能です。
運営業務への効果 (SV・管理者の分析・管理業務)
- AIによる分析をモニタリング業務にも活用
LCAは通話内容のリアルタイム文字起こしや感情分析機能を持ちます。
文字起こしされた通話データであれば一度に複数のコンタクトを確認でき、会話の履歴をもとにフィードバックすることも容易です。
感情分析は顧客感情の変化を時系列のグラフで表現します。顧客感情の変化を利用した応対評価などが可能です。
- データ集計・分析が標準機能で利用可能
Amazon Connectには、コンタクトデータを集計する履歴メトリクス機能や、現在の状況を過去のデータとの比較で分析できるダッシュボード機能が備わっており、コンタクトの件数推移、応答率や平均処理時間、オペレーターの稼働状況などを把握できます。各システムからデータを抽出して別のBIツールで分析するといった作業が不要になる点は、大きな利点です。
さらに、電話以外のチャネルをAmazon Connectに統合した場合、電話・チャット・メールそれぞれの集計・分析が同一基盤上で可能になります。
ダッシュボードの一例を別の記事で解説しています。集計項目のイメージが掴めますので、合わせてお読みください。
新機能、キューパフォーマンスダッシュボードと会話型分析ダッシュボードの解説 - ソリューションバーチャレクス
- オペレーター運用の柔軟性向上
Amazon Connectの電話・チャット・Eメールの顧客対応用画面は操作が統一されており、新たなチャネル追加時の習熟コストを抑えることが可能です。これによりオペレーターが複数チャネルを担当しやすくなるので、シフト設計やチーム編成の柔軟性が向上するメリットが生まれます。
Amazon Connectの電話対応の画面とEメール作成用の画面のイメージ
ツール統合によるコンタクトセンター全体への効果
将来的に電話基盤以外もAmazon Connect中心のAWS基盤に統合すると、下記のようなメリットが得られます。
- 顧客接点の分断解消による顧客体験の向上
顧客ごとのコンタクト履歴が一元管理され、過去の問い合わせ内容や対応状況を即座に参照できるようになります。これにより、「電話前のチャット履歴を踏まえた応対をするべきである」「Webフォームからの問い合わせ内容を把握したうえでの折り返し連絡する」といった、文脈を踏まえた一貫性のある対応をオペレーターが意識できるようになります。結果として、顧客はチャネルごとに説明をしなおすといった負担が軽減され、CX(顧客体験)の向上につながります。
- システム運用負荷・コストの最適化
複数のSaaSを併用している場合、ベンダーごとの契約・更新管理、データ形式の違いによる運用の煩雑化、管理画面や権限管理の分散といった問題が発生しがちです。Amazon Connect中心のAWS基盤に統合することで、契約・請求の一元化、データ保存先の統一(S3など)、IAMによる統合的なアクセス管理が可能になり、システム運用負荷を下げつつ管理コストも最適化することができます。
- AI活用のためのデータ基盤の確立
チャネルやツールが分断された状態では、データの保存場所やフォーマットの違いからAIに学習させるためのデータの取得・管理が困難な場合があります。AWS上にデータを集約することで、データの保存場所を1つのファイルシステムに統一することや、フォーマットの異なるデータを1つのデータ形式に整形するためのツールもAWSの各種サービスを利用することで可能です。通話・チャット・メールを横断した分析、将来的なAI活用(要約、ナレッジ生成、RAGなど)といった高度なAI活用のための基盤が整えられます。
まとめ
本記事では、クラウドベースの電話基盤へのリプレースと生成AI活用を軸にしたコンタクトセンターシステム刷新のアプローチをご紹介しました。
コンタクトセンターでは、顧客接点の拡大に合わせて電話、チャット、メール、SMSといったチャネルが増え、それぞれに適したツールを導入してきた結果、システムがチャネルごと・部門ごとに分断されてしまうケースが少なくありません。また、システムが分断されているためにAI活用施策が打てず、コンタクトセンターの現場が旧来的な仕組みの中に取り残されてしまうという弊害も起こりやすいです。
このモデルケースでは、
- オンプレミスで運用されていたPBXをAmazon Connectにリプレースすることで、電話基盤をクラウド化する
- Live Call Analyticsを活用してリアルタイム文字起こしや通話後の自動要約といった機能を導入。オペレーターの顧客対応支援や業務の効率化を狙う
- チャネルごとに分断されたシステムを、AWSを共通基盤として統合することで、顧客とコンタクトのデータを一元管理する。
といった対策を盛り込み、現状明らかになっている「ばらばらのチャネルの統合」「AI活用」といった課題を解決するだけでなく、将来的な拡張や高度化にも対応できるコンタクトセンター基盤を実現しています。複雑になったシステムを個別最適の積み重ねで解消するのではなく、AWSという共通基盤に立ち返って整理し直すことで、シンプルで拡張性の高いコンタクトセンターを実現する点に価値があります。
バーチャレクス・コンサルティングは、Amazon Connectの導入・構築支援にとどまらず、運用設計や定着支援まで含めたトータルサポートを提供しています。また、Amazon Connectを中核としたコンタクトセンター基盤だけでなく、周辺システムを含めた幅広いAWS環境の設計・構築にも対応可能です。
さらに、長年にわたり顧客接点領域に携わってきた知見をもとに、AI・生成AIの研究および社会実装にも注力しています。実際のコンタクトセンター運用を見据えたAI活用を検討している点も、バーチャレクス・コンサルティングの特徴の一つです。
コンタクトセンターのクラウド化や、Amazon Connectの活用、AIを用いた業務高度化に関心をお持ちの方は、現状の課題整理からご支援可能です。まずは貴社状況のご相談から、お気軽にお問い合わせください。 
執筆者紹介

プロダクトエンジニアリング&サービス部




