危機に備えるあたらしいコンタクトセンターの形、分散型コールセンターソリューション -前編-

危機に備える分散コールセンター ソリューション採用難や自然災害の脅威に加え、今世界中で拡大が続いている新型コロナウィルス感染症による影響などにより、ビジネスを取り巻く環境には様々な課題がもたらされています。そしてそれらの深刻度が急速に増しつつある昨今、労働者における「働き方改革」のみならず、多くの企業がその在り方についても大きな変容・変革が求められてきています。
本稿では、これからの時代に適合したあたらしいコンタクトセンターの価値創出について、またコンタクトセンターの運営スタイルの変革を促す当社の「分散コールセンターソリューション」を紹介していきます。

1. 単拠点大型コンタクトセンターが直面する運営課題

2019年平均の有効求人倍率は1.60倍でした。2009年平均が0.47倍ですので、この10年で仕事量に対する働き手の数は3分の1以下に減少したとも言えます。あらゆる業界で採用難が慢性化している現在、人材の確保は最優先課題となっており、コンタクトセンターも例外ではありません。特に、国内の各主要都市ではその傾向が顕著で、採用競争は激化の一途をたどっています。もはや賃金を上げれば採用できるといった状況にはなく、求職者に対して賃金以外になんらかの価値を提示する必要に迫られています。

図表1:求人、求職及び求人倍率の推移

求人_求職及び求人倍率の推移
出典:厚生労働省

一方で、コンタクトセンター業務の難易度は上昇傾向にあります。これは、問題が発生した際のユーザーの行動が変化してきたためです。多くのユーザーは、問題が発生すると、まずWEBで解決方法を調べます。また、電子申請やチャットボットなど、ユーザーの自己解決を補助するIT技術も年々進化・普及しています。これにより単純な問題は解消されますが、難易度の高い問題は当面コンタクトセンターで解決する形になることが予想されます。

難易度の高い問題の多くは、重要度の高い問題です。問題の重要度に比例してコンタクトセンターの重要度も高まり、いかなる状況でも極力機能を停止させないこと、つまり継続性(BCP(Business Continuity Plan/事業継続計画))がより求められるようになります。継続性を確保する上で、採用難と並んでコンタクトセンターが抱えるもう一つの大きな課題が、自然災害などの不測の事態への対応です。特に、交通機関麻痺やウイルス感染症の流行などにより、毎日の通勤が一定のリスクを生むという意識を強めた方も多いのではないでしょうか。働き方の多様化が推し進められている昨今ですが、ここにきてそれが一気に加速した印象です。

2. BCP対策としてのテレワーク(在宅勤務)推進の潮流

これらの外的要因による課題に対し、BCP対策の一環として、現在最も注目を集めているソリューションが在宅勤務を含むテレワークです。すでに経験した方も多いかと思いますが、デスクワークに限れば多くの業務は場所を選びません。これは、IT技術の進化が非常に大きく寄与しています。グループウェアやファイルサーバー、WEB会議システムなど、様々なツールがクラウド上で稼働し、在宅勤務のストレスを軽減する仕組みはかなり充実してきたと言えるでしょう。

そして、在宅勤務によって、先に挙げた課題のいくつかは解決されます。例えば、採用人材のターゲットレンジは大幅に拡大されます。どこに住んでいても構いませんし、通勤に時間をかけられない事情を持った人材には、新たな就業ニーズを創出することが可能です。また、通勤距離はゼロとなり、当然ながら交通機関麻痺の影響は一切受けません。

3. コンタクトセンター運営における在宅勤務の課題

一見いいことずくめの在宅勤務ですが、ことコンタクトセンター業務への適正はどうでしょうか。 まず、個人情報を多く取り扱うコンタクトセンターにとって、真っ先に懸念されるのがセキュリティの問題です。クラウド型ツールの多くは強固なセキュリティの仕組みを実装しており、ツールを介したデータのやり取りに不安を感じることはありません。ただし、PC自体はその仕組みの庇護下になく、業務によってはシンクライアント端末を調達するなど別の対策が必要です。また、一般家庭への監視カメラやカードキーの設置はハードルが高く、電話口で読み上げたユーザーの個人情報が室外に漏れ聞こえていないとも限りません。

さらに、セキュリティの問題はインフラ面にもあります。在宅勤務では、スタッフが個人で敷設したインターネット回線を使用するケースも多く見受けられます。この場合、回線側のセキュリティ対策も個人に依存することになります。通信品質についても同様です。在宅型コンタクトセンターでは基本的にソフトフォンの使用が前提ですが、通信品質はそのまま通話品質に影響します。

次に、静粛性の問題です。WEB会議の1~2時間くらいなら、家族やペットに音を立てないようお願いすることもできるかもしれません。しかし、コンタクトセンターのオペレーターにとっては、始業から終業までユーザーとのコミュニケーションそのものが仕事です。玄関のチャイムなども業務に影響を与える可能性があります。

オペレーターとSVの関係性も非常に重要です。これには大きく分けて2種類あり、1つめはユーザー対応におけるリアルタイム連携です。オペレーターが単独で解決できない問題はSVにサポートを求め、SVは困っているオペレーターがいないか、常に気を配る必要があります。リモートではテキストチャットやボイスチャットなどのツールを活用しますが、対面による阿吽の呼吸を再現するには至らないと想定されます。2つめは定点観測による応対品質管理です。リモートでもモニタリング~スコアリングを可能とする仕組みは多々存在しますが、スキルを定着させるには単発のフィードバックのみでなく、対面での反復指導が効果的と言えるでしょう。

最後に、在宅でも拠点と変わらず高いパフォーマンスを発揮できるオペレーターには、一定の条件があると考えます。リモートによる初期教育でも積極的に知識・スキルを習得できること、監視がなくとも業務に集中できること、適切なタイミングでSVにサポートを求められること、つまり自律的かつ高スキルな人材であることが求められます。いくら居住地域を問わないとはいえ、こういった人材を採用することは決して容易ではありません。

4. 分散コールセンターソリューションによるあたらしい働き方・運営スタイルの提案

当社では、採用難対策やBCP対応を推進し、在宅型コンタクトセンターの課題の解消する形として、「分散コールセンターソリューション」をリリースしました。従来の「大規模な単拠点をつくり人を集めるモデル」ではなく、「必要な人材がいる場所に複数の小規模センターを構築・運営するモデル」です。

図表2:あたらしい分散型コールセンターモデルへの移行

従来型のコールセンターモデル_分散コールセンターモデル

採用のターゲットは以下のような方々です。

・就業意欲はあるが、事情があって都市部オフィス街までは通勤できない。
・自宅近くで働きたいが、自身のスキルが活かせる・伸ばせる・評価される職場がない。
・在宅勤務の環境を自宅に整えることが難しく、一人で働くのも不安。

都市近郊のベッドタウンに拠点を構築することにより、都市部の単拠点大型コンタクトセンターでは接点を持ちづらい求職者の層にリーチできます。

また、在宅型では育成・評価の手法に一定の制限が生じますが、分散型では様々な手法から選択できます。1拠点あたり1名以上の管理者(SV・ASV)が常時在席するため、ユーザー対応中のリアルタイム連携も含め、オペレーターへのサポートを手厚くすることで、幅広いスキルセットの人材が就業可能です。自身のスキルを発揮できる環境を提供し、地域の他の職場との差別化をはかるとともに、新たな働きがいの創出が可能となります。在宅勤務で難しいと言われる連帯感の醸成やスタッフの不安の検知・解消もしやすく、採用と離職抑止の両面でメリットがあり、安定的な人材の確保ができるようになります。スタッフの定着率向上は継続性を高めるだけでなく、高品質なコンタクトセンター運営にも寄与します。

BCP対応としての複数拠点運営による冗長化については、数百席規模の大型コンタクトセンターでないと実現不能という先入観があるでしょう。しかし、当社の分散コールセンターソリューションの場合、個々の拠点が10~20席程度であるため、合計数十席規模から冗長化できます。自然災害の影響としては、拠点設備が機能不全となる可能性もありますが、より発生頻度が高いと考えられるのは交通機関麻痺です。分散型であれば、拠点周辺に在住のスタッフを中心とした構成になる想定のため、都市部のコンタクトセンターと比較して通勤距離が短くなり、リスクが大幅に緩和されます。

そして、セキュリティ・インフラ・静粛性については、従来型と同等水準の環境が確保されます。特に、セキュリティ対策の面では在宅型との差が顕著です。個人情報を取り扱う機会の多いコンタクトセンターにおいてセキュリティ対策は非常に重要ですが、分散型であれば、カードキーや監視カメラでの入退室管理や、安定した回線による安全な通信が実現可能です。

図表3:単拠点型・分散型・在宅型のコールセンター 運営モデル比較

単拠点型コールセンター モデル 分散型コールセンター モデル 在宅ワーク型コールセンター モデル 比較
分散コールセンターは地域密着型のコンタクトセンターとも言えます。カルチャースクールやスポーツクラブと並んで、地域住民の生活の一部となるような、求職者に選ばれる職場でありたいと考えています。それによってES・定着率を高め、高品質なサービスを提供し、高い継続性のもとでユーザーの満足を得ることを目指します。

冒頭で述べた課題に対して、複数の小規模センターを構築・運営するという形で解決するには、2つの条件が必要です。1つめは、あたらしいモデルを設計・構築するコンサルティングのノウハウとリソースを有すること。もう1つは、複数拠点にまたがる管理・運用を実現させるITソリューションの理解があることです。

バーチャレクス・コンサルティングは「コンサルティング」「テクノロジー」「アウトソーシング」を3本の柱としてサービスを提供しています。これまで数多くのコンタクトセンターを構築・運営してきた実績に基づき、時流・世情に合わせた最適な運営スタイルをご提案・ご支援できる強みがあります。ご興味がありましたら、お気軽にお問い合わせください。

次回は、分散コールセンターの運営手法について、ご紹介する予定です。

執筆者紹介

オペレーションコンサルティング部
コンサルタント
栗原 健介(くりはら けんすけ)
2019年に中途で入社。前職よりコンタクトセンター運営をはじめとした顧客接点領域全般におけるクライアント支援に従事。これまで「CS向上に向けたVOC活用サイクルの構築」「CRM高度化に向けたITソリューションの活用強化」等をテーマとしたプロジェクトを担当。また事業統括部門においてプロジェクト横断的な品質改善・組織強化を推進する役割を担う。現在は、BPO領域のサービス開発および関東地区でのコンサルティング案件に携わっている。

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