日本初のカンファレンスから見えるカスタマーサクセスの今

CS2020_tobira.jpgビジネストレンドが、「モノ型(売り切り型)」から「コト型(継続的なサービス提供型)」へと移り変わるにつれ、リテンションモデルビジネスが注目されています。リテンションモデルビジネスでは、顧客との良好な関係を維持するため、顧客に「成功体験」という価値を提供しなくてはなりません。つまり、「カスタマーサクセスの実現」が成功の鍵を握ります。カスタマーサクセスは日本でも本格的な普及期に入っており、2019年は初のカンファレンスが開催されました。そこで本稿では、日本におけるカスタマーサクセスの現状や定義・ミッション・失敗要因、具体的な実行方法などについて紹介していきます。

「Success4」から見えるカスタマーサクセス領域の今

2019年は、日本初のカスタマーサクセスカンファレンス「Success4」が開催された年でした。サブスク型ビジネスをはじめとする「リテンションモデルビジネス」を成功させるには、カスタマーサクセスへの理解が欠かせません。そこで、カンファレンスの様子を紹介しながら、カスタマーサクセスの今を紐解いていきましょう。

●日本初のカスタマーサクセスカンファレンス「Success4」

2019 年12月3日および4 日の2日間にわたり、ベルサール渋谷ファーストでカスタマーサクセスカンファレンス「Success4」が開催されました。Success4は、デジタル時代に注目すべきビジネスモデル「リテンションモデル」に取り組むビジネスパーソンを対象としています。具体的なターゲットは、次の3つです。

  • 組織に対し、カスタマーサクセス定着と事業成長の責任を負う経営者、事業部長
  • カスタマーサクセスチームの組成・運営やデータ活用をリードするプロフェッショナル
  • プロダクト、マーケティング、セールス、サービスなど、事業成長の鍵を握るコア機能をリードするプロフェッショナル

Success4では2日間で合計37のセッションが開催され、リテンションモデルビジネスとカスタマーサクセスについて、先進的かつ具体的な解説が行われていました。さらに、カスタマーサクセス界のソートリーダーとして知られ、「カスタマーサクセス(通称:青本)」の著者の一人でもあるダン・スタインマン氏の講演も行われました。


ダン・スタインマン氏によれば、現代社会のビジネスモデルは「ロジスティクス型」から「トランザクション型」へと移行し、さらには「サブスクリプション型」へと変遷しており、サブスクリプション型では取引後の価値増大が顕著なのだそうです。(講演の説明では10倍以上と紹介されていました。)したがって、サブスクリプション型ビジネスは、それまでのビジネスとは異なり「最初に収益化」を狙うモデルではないとのこと。このことから、大きな価値を生み出す「取引後」のサポートをいかに充実させるかという視点がうまれ、カスタマーサクセスの誕生に結びついているようです。また、製品やサービスを検討する顧客の7割は、ベンダーの営業担当者と会話する前に検討結果を決めているのだそうです。つまり、カスタマーサクセスを強化できれば、他社の営業活動に先んじたアピールが可能ということになります。


さらに、米国においてCSM(カスタマーサクセスマネジャー)の人数は2015-2018年で8倍になり、その他の国では10倍に達する例もあるようです。求人ベースで見ても84%増えており、特にテクノロジー、ヘルスケア、メディア、物流業界でCSMが増えている傾向にあるとのこと。日本ではまだまだ馴染みが薄い一方、海外では高い人気と需要を誇る仕事として認知されているようです。

カスタマーサクセスの定義、ミッション、失敗要因

日本語では「顧客の成功」と直訳されるカスタマーサクセスですが、その内容は企業によって異なります。人材採用・転職サービスを提供する企業であれば、「採用の成功に寄与すること」が顧客の成功です。一方、SFAソリューションを提供する企業であれば「顧客の営業手法の進化」が、顧客の成功と言えます。このようにカスタマーサクセスの具体的な内容は、事業領域やターゲット、プロダクトの性質によって変化します。では、カスタマーサクセスの共通した定義、ミッションとは何なのでしょうか。この点について、ダン・スタインマン氏は、こう述べていました。

●カスタマーサクセスの定義

カスタマーサクセスとは「プロダクトで出来ること」「顧客が出来ること」のギャップを埋める仕事である。

●カスタマーサクセスのミッション

顧客が得られる価値を最大化するために、「いかに早く顧客に価値を届けられるか」を意識し、Time to Valueを最短にする。

●なぜカスタマーサクセスは失敗するのか

端的に言えば「顧客データの一元化が為されていない」という点が原因である。マーケティング、営業、サービス提供、サポートプロダクト開発、ファイナンスといった各業務部門とそこで集約されるデータが一元化されなければ、カスタマーサクセスは成功しない。カスタマーサクセスを成功させるには、各業務部門によってひとつの「カスタマーサクセスジャーニー」が形成されなければならない。


ダン・スタインマン氏の講演からカスタマーサクセスの成功には「プロダクトと顧客のギャップを埋めつつ素早い価値提供を実現するための体制、および情報管理基盤」が必要だと理解できます。特に顧客データの分散は、縦割りを原則とする日本企業に起こりがちな事態です。したがって、まずは「顧客データを一元的に管理できる環境の構築」を検討すべきなのかもしれません。

カスタマーサクセスの実行方法や注意点

ダン・スタインマン氏の講演のほかにも、多数のプロフェッショナルがカスタマーサクセスの具体的な実現方法を解説していました。特に以下の内容は、業態や業界を問わず、どの企業においても留意すべき内容ではないでしょうか。

●カスタマーサクセスのフェーズ

カスタマーサクセスは大きく分けて以下2つのフェーズがあります。

  •  オンボーディング期(顧客が製品、サービスの使い方を覚える時期)
  •  サクセス期(顧客に製品、サービスの価値を感じてもらう時期)

オンボーディングがうまくいくかどうかで、継続率や解約率が変わってくるのだそうです。そのため、オンボーディング期を通して「何をもってカスタマーサクセスとするか」の認識がなければ、サクセス期の組み立ては難しくなります。

●カスタマーサクセス関連の人材育成、チーム作りについて

日本国内では、多くの企業でカスタマーサクセス関連の人手が足りていません。また、カスタマーサクセスの経験者自体が稀なことから、中途採用も進めにくいという現状があります。その一方で、企業からカスタマーサクセス人材へ寄せられる期待は徐々に大きくなっており、対応範囲も広がりつつあるそうです。


実際にクラウドサービスを提供するある企業では、立上げから1年間でカスタマーサクセスチームの業務が急拡大し、チームが機能不全に陥りかけたとのこと。これを解決するために、「役割分担」と「メンバーごとのミッション明確化」「やらないことの明文化」を進めたのだそうです。

●カスタマーサクセス実現のポイント

こういった実情を踏まえると、カスタマーサクセスの実現には「やるべきこと」と共に「やらないこと」も明確にしたうえで業務量を調節し、ベンダーや外注先の協力を得ながら社内人材の育成に励む必要があるでしょう。また、カスタマーサクセスの実現には、KPIの設定と測定が必須です。実際に何をKPIに設定すべきかは、事業内容やプロダクトの性質によって異なるものの、「可視化された、精緻かつリアルタイム性のある数値」が必要だという点では共通しています。こういった数値の作成には、複数のチャネルから収集したデータを一元的に管理・分析できる基盤が必要です。つまり、高機能なCRMが威力を発揮するのです。

まとめ

Success4では、ダン・スタインマン氏の講演を始めとして、カスタマーサクセス領域のプロフェッショナルから、貴重な実践論が語られました。その中で特に重要だと思われるのは「顧客データの一元化を行う仕組み」「カスタマーサクセス人材の育成」です。日本では、ここ数年で大手企業によるサブスクリプション型ビジネスへ参入が相次いでいます。サブスクリプション型ビジネスのような「リテンションモデルビジネス」では、顧客との関係を強めるカスタマーサクセスの実現が必須です。しかし、情報管理基盤の脆弱さや人材採用・育成の問題もあり、カスタマーサクセスを本格的に成功させている例は少ないと言えるでしょう。


実際にSuccess4の中でも、担当者が暗中模索している様子が感じられました。弊社は、カスタマーサクセスに関するコンサルティングやセミナー・ワークショップサービスの提供に加え、CRM・RPA・チャットボットなど、カスタマーサクセスにつながる複数のソリューションも提供しています。また、これらITソリューションの導入を通じて、カスタマーサクセス実現のためのノウハウも保持しております。もしカスタマーサクセス実現についてお悩みであれば、お気軽にご相談ください。


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執筆者紹介

常務執行役員
ビジネスインキュベーション&コンサルティング部 部長
森田 智史(もりた さとし)
2013年に中途で入社。前職より、CRM関連に限らず、新規事業策定・戦略立案案件や、システム構築案件など、 幅広いテーマのコンサルティング案件に従事。 2017年から現職。現在は、コンサルティング案件全般を所管すると共に、 自社デジタルマーケティング領域の事業拡大の他、RPAソリューション等新規事業開発にも従事。2018年6月に出版した『カスタマーサクセス ー サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則』の訳者であり、カスタマーサクセスに関するコンサルティングや講演なども行っている。

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