CRMを中心とした「顧客接点領域」における2018年のテクノロジートレンドと2019年の展望

CRMを中心とした「顧客接点領域」における2018年のテクノロジートレンドと2019年の展望ライフスタイルや価値観の多様化により、「所有よりも利用」「モノよりもコト」に価値を見出す消費者が増えています。これは「プロダクト販売型」から「サブスクリプション型」へと、ビジネストレンドが転換していることを示しています。さらに、サブスクリプション型ビジネスを成功に導く考え方として「カスタマーサクセス」があります。カスタマーサクセスは、顧客の課題解決よりも「成功体験」を重視して能動的に動き、顧客との間に継続的かつ良好な関係構築を目指します。

そのため、これまで以上に顧客データの分析・活用が求められているわけです。 こういったビジネストレンドの変化の中、CRMの役割にも変化が現れました。従来の役割であった「顧客管理」だけではなく、顧客の要望や嗜好に応じて適切にアプローチする「プロアクティブな機能」が求められているのです。また、業務効率化、人手不足対策ツールとしての役割も負っていることから、さまざまなデジタルソリューションとの連携は必須といえます。 サブスクリプション型ビジネスが本格的な広がりを見せる中、2019年のデジタルソリューションは、どういった動きを見せるのでしょうか。今回はCRMを中心に、2018年のデジタルソリューションを総まとめしつつ、2019年に向けた展望をご紹介します。

エンタープライズITの王者となったCRM

米国ガートナー社が2017年に発表した統計によれば、エンタープライズIT市場におけるCRM分野の投資額が、長らく首位だったERPを上回りました。CRMは1990年代に米国で誕生した経営手法であり、それほど目新しいものではありません。しかし、前述の通り、近年のCRM市場は顕著な伸びを見せています。

CRMは(Customer Relationship Management=顧客関係管理)の略称で、「顧客管理および関係強化のためのツール」として登場しました。具体的には、「顧客接点(チャネル)から取得した顧客情報を一元管理し、顧客との長期的な関係構築により製品・サービスの継続的な利用に繋げる」手法といえます。経営手法としてのCRMをITシステムに落とし込み、具現化したものが「CRMシステム」で、一般的にCRMといえばCRMシステムを指します。

【CRMが注目される2つの理由】

CRMがここまで勢いをもつようになった背景には、2つの理由があるといえます。

ひとつは、冒頭でも述べたように、「プロダクト販売型ビジネス」から「サブスクリプション型ビジネス」への転換です。これはBtoCのみならず、BtoBの分野にまで拡大しており、もはや一大トレンドと言って良いでしょう。このようにビジネストレンドの転換が進む今、CRMによる「顧客情報の分析・可視化」「顧客接点の管理、強化」は非常に有用です。また、顧客属性、顧客接点(チャネル)、離脱やリーチのパターンなどを分析し、将来の行動を予測してアプローチすることは、カスタマーサクセスの促進にもつながります。

2つめの理由は、労働力の確保が難しくなっていることです。労働力人口が減少しつづけ、人材市場が「売り手」の様相を呈する今、人手不足が業績に悪影響を与える例は少なくありません。CRMと複数のデジタルソリューションを連携させ、業務のデジタル化、自動化、で人手不足対策を促進しようという動きが広まっています。

【CRMの活用事例】

  • ・部門間での顧客情報共有や受注見込み管理
  • ・Eメールベースで行っていた受発注業務をCRMパッケージで効率化
  • ・コールセンターシステム(CTIなど)との連携による顧客データの自動保存及び一元管理

【導入後に期待できる効果】

  • ・複数の顧客接点(チャネル)から得た情報を一元管理でき、オムニチャネル化のベースになる
  • ・顧客ひとりひとりの嗜好を分析した「One to Oneマーケティング」が可能になり、顧客満足度向上を見込める
  • ・コールセンターと共にVOC活動(顧客の声を吸い上げる活動)の拠点として、製品・サービス開発のナレッジベースを構築しやすい


CRMと連携可能なデジタルソリューション

それでは、CRMと連携可能なデジタルソリューションとして、今年特に注目されたものを整理していきましょう。

【RPA】

概要

RPAは(Robotic Process Automation=ロボティック・プロセス・オートメーション)の略称で、ソフトウェアで特定の動作を行うロボットを構築し、業務自動化を果たす仕組みです。

手入力かつルーチンワークになりがちな事務処理作業などを自動化でき、業務効率化ソリューションとしては即効性の高さが魅力といえます。

RPAは、一般のPCのようなエンドポイント端末で動作する「クライアント型」と、サーバー上で動作する「サーバー型」に分類できます。さらに、クライアント型とサーバー型両方と特性を備えた「UiPath」のように、万能型のRPAも登場しています。


RPAの活用例

  • ・コールセンター業務における顧客情報のオペレーター補助(操作画面に必要な情報をリアルタイム表示など)
  • ・顧客の音声から属性・ステータス・購入履歴などのメタデータを自動作成
  • ・各種レポートの作成
  • ・Webを使った情報収集
  • ・メール、Webフォームからの問合せ内容等のシステムへの転記
  • ・社内システム(CRM・SFA・ERPなど)への業務データ入力自動化

導入後に期待できる効果

  • ・短納期かつ低コストの業務効率化対策として即効性が高い
  • ・雑務の自動化により解放された社員を、高付加価値労働へ再配置できる
  • ・複雑化するシステム同士の連携でミスを防止できる

【AI】

概要

AIは、一般社団法人人工知能学会の「AIの定義と開発経緯」によれば、「大量の知識データに対して、高度な推論を的確に行うことを目指したもの」と紹介されています。また、その起源は1950年代で、現在の「機械学習」及び「ディープラーニング」を主軸にしたAIブームは「第3次AIブーム」です。

  • ・機械学習...学習を重ねることで法則やルールを見つけ出す
  • ・ディープラーニング(深層学習)...機械学習の一種。人間の神経組織を模倣した「ニューラルネットワーク」を用いて学習を強化し、「着目点」や「重視すべき点」を見つけ出していく技術。


ちなみに、人間のような「自意識」を備えたAI(強いAI)や、用途を特定しない汎用的なAIは実用化されていません。現状では、何かを認識することに特化した「特化型AI」が主流です。

現在広く利用されているAIは、IBM社の「Watson」やGoogle社の「Cloud AutoML」、Microsoft社の「Azure AI」、Amazon社の「AWS(Amazon Machine Learning)」など、クラウドベースのものが増えていることに注目です。また、これらクラウドベースのAIからはAPIが公開されており、接続口さえ開発すれば比較的簡単に利用できることも特徴です。特にプログラミング無しで画像認識が可能な「Cloud AutoML Vision」は、社内にIT人材を持たない企業でも画像認識AIを利用できることから注目されています。


AIの活用事例

  • ・オルタナティブデータの分析による顧客の行動分析と予測(※1)
  • ・音声認識機能と翻訳機能によるリアルタイム音声翻訳
  • ・音声認識による顧客感情の推測
  • ・チャットボットとの組み合わせによる顧客対応の半自動化
  • ・会議、打ち合わせ、などを自動的にテキストデータ化する
  • ・コンタクトセンターでの通話内容を分析し、過去の対応履歴から最適な対応を選択・自動表示する

導入後に期待できる効果

  • ・人間よりも早く正確な認識能力でサービスの「質」が向上する
  • ・ビッグデータとの併用により、使うほどに認識・分析の精度向上が期待できる
  • ・部門間との情報共有や新人教育用の、高品質なナレッジベース構築が容易になる

【チャットボット】

概要

チャットボットは、顧客との会話を半自動化できるプログラムの総称です。
また、「AI×チャットボット」で高度な対応が可能になったり、「RPA×チャットボット」で顧客対応を全自動化できたりと、他の技術と親和性が高いことも特徴といえるでしょう。


チャットボットの活用事例

  • ・Webサイト上からの問い合わせ対応業務の自動化
  • ・社内外から寄せられる問い合わせに対する自動応答、回答
  • ・自動受注受付
  • ・チャットボットとの組み合わせによる顧客対応の半自動化
  • ・コンタクトセンター、ヘルプデスク業務の補助
  • ・顧客からの情報登録依頼、照会業務の自動化

導入後に期待できる効果

  • ・24時間365日対応可能なチャネル(顧客接点)が開設できる
  • ・顧客対応品質の標準化、一定化
  • ・雑務の自動化により解放された社員を、高付加価値労働へ再配置できる
  • ・複雑化するシステム同士の連携でミスを防止できる

2019年以降、注目のデジタルソリューションとは?

このように2018年は、CRMを中心として、サブスクリプション型ビジネスを促進させるデジタルソリューションが注目されました。では、2019年以降は、どういったデジタルソリューションが注目されるのでしょうか。

【CRMハイプ・サイクルから見える次のトレンド】

ガートナー社が2018年12月に発表した「日本におけるCRMハイプ・サイクル」によれば、2~5年以内に普及する可能性が高い技術として、以下のようなものが挙げられています。

  • ・顧客データ・プラットフォーム
  • ・チャットボット
  • ・メッセージング・アプリ
  • ・仮想顧客アシスタント
  • ・顧客サービス向けビデオチャット
  • ・再生ビデオによる顧客サービス
  • ・アカウントベースドマーケティング(ABM)

「顧客データ・プラットフォーム」「チャットボット」「メッセージング・アプリ」「仮想顧客アシスタント」については、既存のCRM、チャットボット、AI活用の拡張版と考えて良いでしょう。CRMと各種AI(音声認識、感情分析AIなど)の融和が進んでいくのかもしれません。

一方、「顧客サービス向けビデオチャット」「再生ビデオによる顧客サービス」「アカウントベースドマーケティング」については、発展途上といえます。動画ベースのコミュニケーションは顧客関係強化やリーチ獲得で高い効果を発揮するため、CRMとの連携が進んでいくのではないでしょうか。

また、アカウントベースドマーケティング(ABM)は、法人をターゲットとし、自社の複数の部門が連携して、商談の内容・タイミングを練り、成約を目指すマーケティング手法です。そのため、一社員、一部門のノウハウではなく、組織的な営業・マーケティング手法といえます。このように組織的な施策を成功させるには「ターゲット企業の情報」「タッチポイント(接触)の履歴」「キーパーソンの特定と周知」などが欠かせないため、新たなデジタルソリューションの導入が必要になるかもしれません。すでに一部のCRMパッケージでは、ABMに関する機能が搭載されていますが、本格的な普及はこれからといったところでしょう。


コンタクトセンター関連も要注目

サブスクリプション型ビジネスの拡大シーンにおいて「カスタマーサクセスを実現できるコンタクトセンター構築」を課題にする企業は多いでしょう。カスタマーサクセスは、「問題の解決」ではなく「顧客の成功」によって顧客体験を向上させることから、より能動的なアプローチが必要になります。一方、コンタクトセンターは、複数の顧客接点において高品質な対応を行い、顧客体験を向上させる「オムニチャネル化」が肝心です。この2者を結びつけるデジタルソリューションは、2019年も引き続きトレンドとなる可能性が高いと考えられるでしょう。

  • ・カスタマーサクセスツール:マルチチャネル対応、FAQ構築、ナレッジベース構築、チャットボットなど、カスタマーサクセスに必要だと考えられるツールを提供
  • ・CTI(Computer Telephony Integration):通話録音機能、ポップアップ機能、顧客情報の自動表示機能などでオペレーターの負荷軽減
  • ・NPS( Net Promoter Score=ネットプロモータースコア):顧客ロイヤルティ(特定のブランド、製品、サービス、企業に対する愛着・信頼)を計測。


「選定眼」が問われる時代に

今回はCRMを中心とし、デジタルソリューションの展望をまとめました。デジタルソリューションの導入においては、企業ごとに異なるビジネス形態に合わせた選定が重要です。労働力の確保が難しい時代にあり、デジタルソリューションをいかに無理・無駄なく活用できるかがビジネスの命運を左右するといえるでしょう。

※1 オルタナティブデータ:SNS上の発言や検索傾向、特的のコミュニティーに寄せられる情報など、企業や政府の公式発表に含まれない「代替データ群」を指す言葉。

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