すでに成功を収めている、国内企業のカスタマーサクセス取り組み事例

成長企業の常識、企業と顧客を成功に導く「カスタマーサクセス」―これからの時代の必勝法-最近注目が高まりつつある「カスタマーサクセス」。以前の記事でもご紹介した通り、この概念が台頭してきた背景には、CRM(顧客関係管理)領域でクラウドコンピューティングサービスを提供してきた世界トップベンダーであるセールスフォース・ドットコムが、2000年初頭にいち早くその重要性を唱え始めたことにあります。その概念や原則について、これまで全3回にわたって紹介してきましたが、今回は実際にカスタマーサクセスの実現に取り組んでいる日本企業の事例(※1)を「カスタマーサクセスの10原則」に沿ってご紹介したいと思います。

●Sansan株式会社

Sansan社は法人向け、個人向けのクラウド名刺管理サービスをサブスクリプションモデルで提供しています。事業継続には顧客との契約維持が非常に重要となるため、同社ではカスタマーサクセスの考えを取り入れ、チャーン(Churn=解約)の管理やカスタマーエクスペリエンスと顧客満足度の向上を実現することで収益拡大に繋げています。

【原則②】顧客とベンダーは何もしなければ離れる

同社では、新規顧客に自社ツールを継続的に利用してもらうよう、常に顧客の活用状況をモニタリングしています。顧客のログイン回数や読み込みの名刺枚数、週ごとの活用頻度、お客様とのコミュニケーション頻度などスコアリングして、活用が進んでいない顧客に対してはその理由を尋ねたり、再度使用方法の説明を行うなど、適切なフォローを行うことでチャーン防止に繋げています。

【原則⑤】ロイヤルティの構築に、もう個人間の関係はいらない

同社では「契約規模」と「導入フェーズ(導入/運用・活用/拡大・継続・解約防止)」の2軸で顧客をセグメント化しており、セグメントごとにカバレッジモデルと、対応の指針を決めています。例えば大企業はハイタッチ顧客と定義し、専属担当者が説明会の場を設け、導入を推進していきます。また中小規模の企業に対しては、メールや電話、e-ラーニングなど、テックタッチでのサポート提供により一対多のやり取りを可能にしています。顧客から得られる収益と、その先に見込まれる増加分を加味した上で、コミュニケーションの時間やリソースを配分することが重要になります。

2018年7月現在「Sansan」を導入している企業は7,000社以上。法人向けの名刺管理サービスとしては、81%のシェアを獲得しています。


●freee株式会社

freee社は、会計の知識がなくても簡単に会計処理を行うことができる、個人事業主や中小企業向けの会計ソフト「freee」を中心に、スモールビジネスの成長段階に必要な事務管理系サービスをクラウド型で提供しています。

【原則①】正しい顧客に販売しよう

同社は、顧客を「会計知識が少ない個人事業主や中小企業」に絞り、クラウド会計ソフトを提供しています。スモールビジネスに携わる顧客の「会計作業に時間を割くのではなく、本来取り組むべき業務に時間を使いたい」というニーズに対し、同社は自社製品を使ってもらうことで顧客の会計に費やす時間を削減し、本業に集中できる環境を生み出すことに貢献しています。

【原則②】顧客とベンダーは何もしなければ離れる

同社では、自社製品から離れている顧客を見つけるため、顧客のログイン状況や取引登録、入力の頻度など定量的な数字から顧客のつまずきを点数化しています。その点数が高い顧客には直接コンタクトを取り、どのような理由で「freee」から離れているのかを聞き、障壁となっていることがあれば解決するようにしています。また、そのフィードバックを製品の改良に反映させ、更なる顧客満足度の向上に努めています。(【原則⑥】本当に拡張可能な差別化要因は製品だけだ)

【原則⑤】ロイヤリティの構築に、もう個人間の関係はいらない

この原則は顧客と個人的な関係を持つ必要は一切ないといった意味のものではありません。顧客ロイヤルティの構築を個別対応のみによって行うのではなく、顧客のエンゲージメント(顧客層)に応じて異なるタッチモデルを整備する必要があるということです。同社ではメール、チャット、電話、ヘルプページ、使い方動画など様々な顧客接点を用意し、顧客規模や必要とされるサポートの深さなどによって最適なアプローチができるようにしています。

【原則⑨】ハードデータの指標でカスタマーサクセスを進める

カスタマーサクセス部門の目的である「顧客を成功に導けたかどうか」を判断するためには、予め成功の定義と指標を定め、計測する必要があります。事業成果に関する指標の例のひとつとして、顧客満足度が挙げられます。同社が2015年に行った調査によると、前年の66%から86%へと、大幅な顧客満足度の向上が見られました。同社はこの顧客満足度向上に加え、チャーン率や既存顧客の契約金向上なども、カスタマーサクセスに取り組む上で重要な指標と位置付けて取り組んでいます。

このような取り組みの結果、freeeを利用する事業所数はサービス開始からわずか2年で30万事業所に増え、5年経った2018年現在では100万事業所を突破しています。


●株式会社フロムスクラッチ

フロムスクラッチ社(現:株式会社データX)は、ビッグデータ×人工知能を主軸に事業を展開するデータテクノロジーカンパニーです。同社が開発・提供するマーケティングプラットフォーム「b→dash」は、企業が保有するユーザーデータ・広告データ・購買データなど、マーケティングプロセス上に存在する全てのビジネスデータを、一元的に取得・統合・活用・分析するSaaS型マーケティングソリューションです。

【原則⑥】本当に拡張可能な差別化要因は製品だけだ

ツールベンダーが製品機能のアップデートに力点を置き、製品価値最大化のミッションを掲げている場合、ユーザーがそのツールを使いこなせていないと、ユーザーのリテラシーに問題があるとされ、せっかく導入した高価なツールが無駄になってしまう、ということが多々あります。b→dashは国産ツールであるため、管理画面などが英語で表示される海外ツールとは異なり、日本語で表示されることはもちろん、誰でも簡単に使えるシンプルなUI/UXにこだわって開発されているため、「誰でもデータが使える」という言葉通り、データに関するリテラシーが高くないユーザーでも直感的な操作が可能になっています。そのため製品定着率を高め、ツールが持つ価値をユーザーが最大限享受することができます。

【原則⑦】タイムトゥバリューの向上にとことん取り組もう

MAツールは導入後計やシナリオ作成が大事であるものの、その作業の難易度が非常に高いため、同社では製品導入企業に対して担当コンサルタントをつけ、導入時のサポートを徹底的に行います。まず簡単に成果が出せるところから着手の各種設して設計することで、PDCAを数回一緒に回していくうちに顧客担当者が自走できるようになっていきます。このように、顧客が製品に対して短期間で価値を感じられるよう、スモールスタートで小さな成功体験を一緒に積み重ね、伴走することで、顧客の長期的な製品利用に繋がっていくのです。また同社が今年2月に発表した「b→dash Lite」はサブスクリプションモデルでの提供となり、中小企業やベンチャー企業のオンボーディングを簡単にするとともに、導入から7日間での結果創出を可能にしています。

●おわりに

こちらで紹介したのはほんの一例ですが、いずれの企業も「売って終わり」ではなく、「売った時から」顧客に寄り添い、自社のサービスや製品が通じて顧客の成功を目指して伴走しています。こうした取り組み事例からも、「カスタマーサクセス」は決して「カスタマーサポート」の延長ではないことがわかっていただけると思います。特にテック系のスタートアップでは、少ない人員で多くの役割をこなしながら顧客の声を聞き、フィードバックループをスピーディーに回して製品を磨き上げていくというフェーズを経験する企業も多いため、自然とカスタマーサクセスの概念が社内に根付いているというケースもあるのかもしれません。小さな組織であれば、企業の成長に合わせて柔軟にカスタマーサクセスの体制を整えていく事も可能です。

今後は国内の大手企業も、そしてSaaS以外のビジネスモデルおいても、この概念を無視してビジネスを継続していくことが困難になる、とも言われています。最近ではカスタマーサクセスに関する知見や経験を共有するコミュニティイベントやセミナーも多く開催されており、そのテーマに関する関心の高さが窺えます。また弊社が翻訳を担当したカスタマーサクセス書(「カスタマーサクセス-サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の法則」)は、実践的なプロセスや実施にあたっての留意事項など、カスタマーサクセスの全てがわかる一冊となっています。「カスタマーサクセスって、なんだかよくわからない」という方も、この機会にこれらのリソースを活用して、企業成長のカギとなるこの概念について是非学んでみてください。あなたのビジネスにとってもヒントになる新しい発見が、きっとあるはずです。

(※1)弊社調べ

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