顧客体験の向上を目指す。保険業界コンタクトセンターの挑戦

Insurance.jpg自社で定めたSLA(サービス品質保証)を満たしている企業は多く存在すると思いますが、そのなかで本当にお客さまを満足させている、と自信を持って答えられる企業はどの程度いるでしょうか?

最近は顧客体験(カスタマーエクスペリエンス。CX)を向上するため、様々な取組みが各業界で起きています。既存の顧客や見込み客などと接する機会の多いコンタクトセンターはCXの要となり得ます。顧客のロイヤリティを育成しつつ、既存顧客、見込み顧客と存分に対話することがセンターで出来れば、あらゆる組織の中枢を担うことも出来ます。

今回はこうしたCX向上の取組みの中でも保険業界に注目し、先進的な取組みなどを紹介します。

カスタマーエクスペリエンス重視の時代に求められるコンタクトセンターとは?

コンタクトセンター運営において、AHT(平均処理時間)やコール処理件数などが重要指標とされることがありますが、CXが重視される環境下でも同じとは限りません。これらの指標は「速さ」を計測するための指標であり、「質」を担保する指標ではないからです。

迅速な対応は確かに喜ばれますが、その前提として、顧客一人ひとりの悩みに合った正確な対応と、悩みの解消が実際に叶わなければ顧客は満足しません。

AHTのように直接的に生産性を測定する基準もいまだ使用されていますが、顧客体験重視のコンタクトセンターでは

・サービスレベル
・初回解決率(FCR)
・対応品質
・顧客満足度(CS)
・従業員満足度(ES)

といった、質により重きを置いた全体観的な指標に注目し、計測を試みています。

CXに重きを置くコンタクトセンターは、顧客に最適な価値を提供できるよう、お客様のプロフィールや応対履歴などの顧客情報やセンター内外のノウハウに容易にアクセス出来る環境を、ヒト/オペレーション/テクノロジーの観点から戦略的に作り上げています。その取組み例をいくつか挙げてみたいと思います。

1. 顧客体験とロイヤルティを向上させる

病気のリスクや老後の心配など、様々な理由から消費者は保険会社と様々なチャネル(店舗やウェブなど)を通じて接する機会が増えています。こうした状況において、効果的なコンタクトセンター戦略を立てるために欠かせないのが、ターゲット顧客とマーケットへの深い理解です。

消費者や顧客のチャネル利用傾向、ライフステージ、ライフスタイル、行動履歴(ウェブサイト来訪やメールの開封、店舗来店など)を把握し、理解して対応に当たることが出来れば、CXやロイヤルティの向上に繋げることが出来ます。

こうした顧客理解を深める為に必要な環境の整備、人の教育などに投資を実施することは、効果的なCXの構築において欠かせない重要ポイントでしょう。

2. 複数チャネルを連携させた統合的アプローチ

一貫した顧客体験を提供するために、保険業界のコンタクトセンターはモバイル、ウェブメディア、ソーシャルメディア、チャット、動画など、あらゆるサービスチャネルのシームレスな連携が必要になります。コンタクトセンターのオペレータがこうした情報を活用できるスキルを身に付けることも、成功に不可欠です。(または、足らないスキル面を埋めてくれるようなシステムを導入することも一つの手かもしれません。) こうしたクロスチャネルの取組みを完璧に実現している保険会社はまだ少ないですが、メットライフ生命が実施するウェブ閲覧行動に応じたメールの最適化や、みずほ銀行のライフステージに合わせたOne-to-Oneメッセージ配信などは、チャネルを連携させた良い取組みの1つと言えるでしょう。

3. 見込み顧客を育成し、売上に貢献するコンタクトセンター

典型的なアウトバウンドコールを超えた、営業担当をサポートし、見込み顧客を育成をサポートする役割をコンタクトセンターに求めるケースも出始めています。

ウェブサイト来訪者とのチャット対応などは、クロージングする確率を高める取組みとして注目されており、アメリカのPROGRESSIVEやデンマークのAlkaなどがその一例でしょう。ウェブサイト来訪者の疑問や悩みを伺い、回答しながら情報収集し、見込みがあればセールス担当に繋いでいく。チャットに限った話ではないですが、セールス担当に繋ぐ前の、お客様とコンタクトセンターとの接点が、成約率の向上に貢献し、且つ無駄な訪問営業を減らすコスト削減にも貢献しているようです。

Forrester Researc(現Harver)の調査によると、回答者の66%が保険などの金融サービスの申し込みをオンラインで行うことに抵抗があり、電話や対面での応対を望んでおり、そのうちの52%が意思決定に際して人からの助言、サポートを受けたいと回答しました。調べたり、比較するのはオンラインでも良いかもしれませんが、いまだ人対人で会話することが、成約を決める上での重要な要因となっているようです。

また、クロスセルなどの観点からも、お客様からの問合せを受けるコンタクトセンターは、事情を伺いながらより自然に商品のご紹介も出来るでしょう。そういったクロスセルを促進する上で、過去の契約内容や応対履歴をもとにオペレータへ商品をレコメンドしたり、センター内のFAQに推奨商品を表記するなどして、情報にオペレータがアクセスできるようにしておくことも重要です。

4. 高度な分析、インフラ環境でオペレータをサポートする

技術の発展に伴い、多くの保険会社がデジタルチャネルを通じたお客様とのコミュニケーションに注力しています。ライブチャットの導入やIVRの活用、セルフサービス型ポータルでの情報提供などがその際たる例です。こういったデジタルチャネルは人的コストを下げながらお客様とのコミュニケーションが実施できるツールたちと言えます。

IVRなどは人が介在することなく、お客様の目的の確認や簡易な手続きを、営業時間昼夜問わず可能にしてくれます。またVisual IVRのような最新ソリューションを活用すれば、より使いやすい形でお客様へのサポートサービスを提供することが出来るようになります。

また、アメリカのBarclaysでは声紋認証を用いて電話してきた顧客を特定/判別し、本人確認などの対応時間を短縮することに成功しています。

保険の利用や支払履歴、メール、コールセンターなどの様々な情報を集約して分析することで、督促が発生しそうな顧客を予測したり、将来の保険料の予測をもとに最適なプランを提案したりすることも可能になってきています。

こうした分析結果に基づいて顧客と対話することも、顧客体験の向上に繋がっていくでしょう。

これからに向けて

消費者と企業のコミュニケーションの形は大きく変わりつつあります。消費者が多様なコミュニケーションチャネルの中からどれを選択しても、高品質で一貫性のあるサービスを享受できるかが、ビジネスを成功に導く大きな要因となってきています。

中でも重要な接点を担うコンタクトセンターこそ、担う役割はますます重要になり、それに応じた変化が求められています。保険業界の多くのコンタクトセンターが、将来を見据え、そのあり方を再検討すべきタイミングに来ています。

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