
コンタクトセンターへのAI導入が加速する中、「まず試してみたい」「既存業務の一部での利用から始めて検証したい」というニーズが増えています。しかし実際には、Amazon Connect Customer(注:Amazon ConnectがAIファミリー化されたことに伴う新名称)のようなクラウド上で利用できるコンタクトセンター・サービスであっても、AI機能や顧客管理・ケース管理を一通り動かせるテスト用環境を整えるには、設定項目が多く相応の準備時間がかかります。
こうした課題に応えるソリューションとして、AWSが公式に公開しているのが Amazon Connect Customer Starter Kit日本語版です。デプロイするだけでAI機能を含むコンタクトセンター環境が構築でき、すぐに動作確認まで進められます。本記事では、2026年6月現在のスターターキットの概要・特長と、実際に操作してわかった注意点を解説します。
※画面キャプチャ画像内の赤枠や赤文字の書き込みは弊社による注釈です。実際のAmazon Connect Customerの画面には表示されません。また、画面やメニュー名称は執筆時点のものです。アップデートにより表示が変更される場合があります。
目次
Amazon Connect Customer Starter Kitとは
生成AIによるケース要約の自動作成(スターターキット固有機能)
発信者番号切り替え、発信履歴表示機能(スターターキット固有機能)
1本の問い合わせが完結するまでの流れをスターターキットで実践
Amazon Connect Customer Starter Kitとは
Amazon Connect Customer Starter Kit(以下、スターターキット)は、GitHubでAWS公式が公開している、Amazon Connect Customerインスタンスをテンプレートを利用して素早く構築できるソリューションです。東京リージョン(ap-northeast-1)またはバージニア北部リージョン(us-east-1)の両方でデプロイすることができます。
- コンタクトセンターを運営する企業向けに開発された、Amazon Connect Customer の導入・デプロイを支援する統合ソリューションです。
- 本パッケージの最大の特徴は、デプロイするだけで最新の AI 機能を活用したコンタクトセンター環境が即座に利用可能になる点です。複雑な設定作業は不要で、付属のデプロイメントガイドに従うだけで環境が完成します。
(Readmeより抜粋)
AWS Cloud Formationのテンプレートだけでなく、Readmeや手順書などの構築ガイドも日本語で充実しており、AWSとAmazon Connect Customerの基礎知識がある人ならば数時間で実際に電話をかけたりチャットボットの動作を試したりすることができるAmazon Connect Customerインスタンスを構築することが可能です。
スターターキットの注目機能
数ある機能の中から、スターターキットの特長をいくつかご紹介します。
AI・顧客管理・ケース管理が統合済みの状態で使える
通常、Amazon Connect CustomerでAI機能・顧客プロファイル・ケースを利用するにはそれぞれ個別に有効化の手続きが必要ですが、スターターキットを使うとこれらが最初から統合された状態でセットアップされています。
AIエージェント(Connect アシスタント)
Amazon Connect Customerには標準でAIエージェントと初期プロンプトが用意されていますが、スターターキットにはAIエージェントが参照するナレッジ(クレジットカードや自動車ローンに関するマニュアル)もあらかじめ含まれています。デプロイ後すぐにテストコールでAIエージェントの動作を確認できる点は、検証目的での活用において便利です。
このナレッジ文書はWordで作成されており、内容を人間が確認・編集することもできます。AIに参照させる文書の形式や書き方の見本として活用したい場合にも参考になります。
エージェントワークスペース(オペレーターが顧客対応を行うための画面)では、オペレーター支援AIエージェントに対してナレッジを質問したり、通話内容を要約してもらったりする機能も利用できます。
また、電話・チャットの両チャネルで顧客向けのAIボットを利用できます。電話チャネルでのAIボット活用は、返答速度や通話品質が体験に直結するため、早い段階から実機でテストできることは重要です。弊社の動作確認では、顧客の発話終了からAIボットの返答までに2秒程度の間が発生しました。ナレッジベースの範囲内での質問については、USBヘッドセットを使用した環境で発話内容の大幅な誤認識は見られませんでした。
顧客プロファイル
基本機能をすぐに利用可能です。過去の弊社ブログで詳細な機能の解説をしていますので、是非ご覧ください。
ケース
基本機能をすぐに利用可能です。過去の弊社ブログで詳細な機能の解説をしていますので、是非ご覧ください。
生成AIによるケース要約の自動作成(スターターキット固有機能)
Amazon Connect Customerには「CaseSummarization」というケース概要生成AIエージェントが標準で搭載されており、過去の問い合わせ履歴をもとにケースの概要(複数の問い合わせ・コメントを要約した文章)を自動生成できます。ただし、このエージェントはシステムエージェントであるため、設定を編集することができません。そのため、日本語の会話が行われていても、生成される概要は英語になってしまいます。日本語でケース概要を自動生成したい場合は、CaseSummarizationと同等の機能を持つAIエージェントを別途自分で作成する必要があります。
スターターキットで構築した環境には、この日本語対応のケース概要生成AIエージェントがはじめから組み込まれています。自分で作成・設定する手間を省ける点は、特に導入初期の作業量を抑える上で大きなメリットと言えます。
発信者番号切り替え、発信履歴表示機能(スターターキット固有機能)
MyConnectAppは、オペレーターが顧客対応を行う画面であるエージェントワークスペースに表示できるアプリケーションです。
Amazon Connect Customerでは通常、発信時の電話番号(発番)の切り替えにはキュー設定の変更が必要ですが、MyConnectAppを使うとその設定変更なしに発番を選択して発信することができます。また、ログイン中のオペレーター自身が対応したコンタクトの履歴を一覧で確認できる機能もあります。このアプリケーションはソースコードが公開されており、追加開発も可能と思われます。
MyConnectAppの画面イメージ
デプロイ後すぐ電話でテストできる
Amazon Connect Customerでインバウンドコールやアウトバウンドコールのテストをするには、事前に電話番号を取得しておく必要があります。米国など一部の国の番号はAWSサポートへの問い合わせなしにコンソールから直接取得できるようになっていますが、スターターキットではデプロイ時点でアメリカの電話番号が1件取得済みの状態になっているため、その手順も省略できます。
なお、日本の電話番号を取得するには所定の書類を提出してAWSサポートに申請する必要があります。番号の種類によりますが、取得まで数日〜2週間程度の準備期間を見ておく必要があります。
日本語ドキュメントが充実していて構築・管理がしやすい
Amazon Connect Customerの構築では、設定項目が多岐にわたるため、どこから手をつければよいかわからないといった状況になりがちです。スターターキットには、そうした場面で役立つドキュメント類が日本語で一通りそろっています。
GitHubのReadmeではソリューション全体の概要をすばやく把握でき、構築ガイドは画面キャプチャ付きで手順が丁寧に説明されています。また、構築時の設定値や作成したリソースの管理に役立つExcelのパラメーターシートも付属しています。初めてAmazon Connect Customerに触れる方でも、ドキュメントに沿って作業を進めやすい構成になっています。
パラメーターシートの例
パッケージに含まれるその他の主な機能
前項で紹介した注目機能のほか、付属の構築ガイド(AmazonConnectCustomerPackage_DeploymentGuide_20260605.pdf)で構築できる主要な内容です。
- 利用できるチャネル:電話(インバウンド・アウトバウンドの両方)、チャット(手動で有効化する必要があります)
- 電話番号(米国)1件 ※日本国内の電話番号については別途取得申請が必要
- 顧客プロファイルによる顧客管理
- ケースによる問い合わせ管理、問い合わせ内容のAI要約
- Contact Lensによる通話分析の各種機能(通話の文字起こし、感情分析など)
- オペレーター向けのAIエージェント機能(ナレッジを自動検索し、会話の内容に合わせてレコメンド/オペレーター向けチャットボットでのナレッジ検索、会話内容要約)
- 日本語で会話ができる顧客向けのAIボット(音声チャネルとチャットチャネルで利用可能、オペレーターへのエスカレーション可能)
- エージェントワークスペースでキューを選択しての発信や自分が対応したコンタクトの一覧を表示できる簡易アプリケーション
- インバウンド・アウトバウンド用コンタクトフロー/祝日管理を含む各種テンプレート
なお、初期設定状態では利用できないAmazon Connect Customerの主要機能もあり、Eメールチャネル/SMS送信/アウトバウンドキャンペーンは自分で有効化する必要があります。
1本の問い合わせが完結するまでの流れをスターターキットで実践
ここでは、「カード会社にクレジットカードの解約手続きについて確認するケース」を想定し、実際にスターターキットを使って電話をかけた場合の体験を、顧客・オペレーターそれぞれの視点で追ってみます。
①AIボットによる自動FAQ回答から有人エスカレーションまで(顧客視点での体験)
電話をかけると、まずAIボットが対応を開始します。従来のIVRのように番号を押して要件を選択するのではなく、顧客が話した内容をAIボットがそのまま聞き取り、自然な会話の流れでFAQに回答します。
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(会話例) AIボット「サンプルカンパニーお問い合わせ窓口です。自動車ローン、クレジットカード、支払い請求、ITサポートに関して、ボットによる自動回答サービスを提供します。ご用件をお伺いします。では、どうぞ。」 顧客「カードの解約方法を教えて」 AIボット「お調べいたしますので少々お待ちください。(数秒の無音)クレジットカードの解約は、カスタマーサービスに連絡して手続きを行います。解約前に残高を全額お支払いいただく必要がございます。さらに詳しい情報が必要ですか。」 |
AIボットは事前に登録したナレッジを参照して回答します。検索処理が入るぶん回答までに数秒の間が生じますが、ナレッジに沿った内容で応答します。ナレッジに含まれない質問をした場合は、検索を試みたうえで回答できない旨を返答します。
チャットチャネルでも同様の動作が可能です。回答までの無音が気にならないため、チャットチャネルはスターターキットでの初期検証に向いていると思われます。
次に、顧客は解約以外の選択肢も確認したいと思い、人間のオペレーターへのエスカレーションを要請します。
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(会話例) 顧客「人間と代わって」 AIボット「承知いたしました。人間のオペレーターにおつなぎいたします。少々お待ちください。」 |
顧客の発言の趣旨をAIボットが理解し、エージェントにコンタクトをエスカレーションします。
②有人エスカレーション後のエージェントワークスペースの動作(オペレーター視点での体験)
着信はエージェントワークスペース上で受け付けます。既存顧客の場合は顧客プロファイルが自動表示されるため、過去の問い合わせ履歴をすぐに確認した状態で対応を開始できます。新規顧客の場合は電話番号などの基本情報のみが表示されます。
エージェントワークスペースに着信した時の画面
通話が始まると、2〜3往復ほどの会話でAIエージェント(エージェントコパイロット)が通話の意図を特定し、回答の推奨を提示します。またケースが自動作成されるため、問い合わせ内容を別途記録する手間も省けます。
コパイロットが回答を推奨している様子
エージェントコパイロットに個別の質問を投げかけたり、会話内容の要約を依頼することも可能です。
要約を依頼した時の様子
③後処理でのケース要約の自動生成(オペレーター視点での体験)
顧客との対話が終了したあとの後処理として、AIによるケース概要の自動生成を行います。
生成された概要はContact Lensの文字起こしを参照しながらオペレーターが修正することも可能です。下書きをAIが自動作成することで、後処理時間の短縮と記録品質の均質化が期待できます。
以上で、1件の問い合わせが受付から後処理まで完結するまでの一通りの流れを体験できました。
ただし、これらの機能を正しく動作させるためにはいくつか設定上の注意点があります。次の章で詳しく解説します。
実際に操作してわかったスターターキットの注意点
便利なセットアップキットですが、利用する際には下記の点にご注意ください。
- テストコール料金に注意
スターターキットで取得される電話番号は米国番号のため、日本の電話からテストコールを行うと国際通話料金が発生します。大量のテストコールを予定している場合は、コストアラートを設定するか、AWSサポートに依頼して日本の電話番号を取得することをお勧めします。 - Contact Lensの有効化が必要
自動構築される個々のフローには、Contact Lensのブロックが含まれていないものがあります。初期設定のままでは通話・チャットでContact Lensの機能を利用できないため、フローを適宜修正してください。特に、スターターキットで自動構築されるオペレーター支援AIエージェント(回答の推奨)を利用するには、Contact Lensの有効化が必要です。 - ケース概要の必須化が必要
スターターキットが自動作成するケーステンプレートは、初期状態では全項目が任意入力です。AIによるケース概要の生成を利用する場合は、管理画面のケーステンプレート設定で「概要」の項目を必須項目に変更してください。 - 実会話を想定したテスト
顧客向けAIボットは、質問への回答精度などの一般的な確認項目に加えて、人間との実際の会話を想定したテストを行うことを推奨します。例えば、会話に意図的にフィラーや相槌を挟むテストです。弊社の動作テストでは、相槌を顧客の発話と誤認し、AIボットが発話を止める挙動を確認しました。
まとめ
Amazon Connect Customerのスターターキットについての概要と、実際の操作を通じた注意点をご紹介しました。
スターターキットの位置づけを一言で表すと、本番環境の前段階を素早く作るためのツールといえます。CloudFormationで多数のリソースが自動構築されるぶん、環境全体の設定を最初から把握しきることは難しく、権限設定など細かな確認が後から必要になる場面もあります。そのため、いきなり本番環境として使い始めるよりも、PoCや社内テストといった用途でまず活用し、検証の完了した部分から段階的に本番環境へ移していく進め方が現実的です。
また、スターターキットはAmazon Connect Customerの機能を幅広くカバーしており、AI機能についてはエージェントとプロンプトが最初から組み込まれた状態で試せます。Amazon BedrockのようなAI基盤技術に深く精通していなくても、AIを活用したコンタクトセンターがどういうものかを素早く体感できる点は、大きな強みと言えます。外部システムとの連携など、スターターキットがカバーしない領域は別途実装が必要ですが、コンタクトセンターの基本構成とAI活用の実際を体感する出発点としては十分な内容です。
バーチャレクス・コンサルティングは、Amazon Connect Customerの導入・構築支援にとどまらず、運用設計や定着支援まで含めたトータルサポートを提供しています。また、Amazon Connect Customerを中核としたコンタクトセンター基盤だけでなく、周辺システムを含めた幅広いAWS環境の設計・構築にも対応可能です。
スターターキットの内容にとどまらないPoC・本番運用のご相談ももちろん可能です。
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プロダクトエンジニアリング&サービス部




