コールセンターが担う顧客体験価値最大化への取り組み/大手カメラメーカー編

コールセンターにおける顧客体験価値向上の役割:大手カメラメーカー編

あらゆる製品・サービスの提供において、顧客体験(カスタマー・エクスペリエンス:CX)価値(※1)が重視されるようになっています。顧客体験価値は、今後のビジネスシーンで最もコアな要素となる可能性が高いです。顧客体験価値の根幹は「顧客が企業との接触を繰り返す中で積みあがる価値」と言い表すことができます。

最近では、旧来の「グッズ・ドミナント・ロジック」から「モノ自体は顧客に価値を提供するサービスの一部」という「サービス・ドミナント・ロジック」を取り入れる企業も増え、顧客体験価値をどのように最大化するのかというのは、世の中の大きな潮流でその重要性はますます高まるばかりです。

このような背景の中、コールセンターの負う役割が注目されています。

コールセンターは自社の製品やサービスを提供した顧客との貴重な接点です。したがって、コールセンターにおけるコミュニケーションの品質や内容が、顧客体験価値の形成に大きな影響を与えることは想像に難くありません。

コールセンターでの顧客対応は、店舗対応などとは異なっています。対面ではなく「お客さまの顔が見えない」というハンディがあるわけです。また、WebサイトのFAQの充実化などが図られている今、顧客にとってコールセンターは「問題解決の最後の砦」になりつつあります。なぜなら、多くの購入者はFAQを読み込み、自己対応できない部分だけを問い合わせるからです。つまり、コールセンターでは、FAQで解決できない複雑な質問や、クレームへの対応がスタートになっており、顧客対応のハードルが高まっているのです。また、気軽に連絡できるメールやチャット、LINEなどの導入が進みつつあり、顧客との接触頻度もあがっています。こういった現状を総合すると、顧客体験価値向上のためには、コールセンター全体の改革が不可欠になってきているといえます。

以下より、大手メーカーの事例を参考に、そのポイントについて説明します。

1:顧客接点が少なくても顧客体験価値を向上させるには?

前述したように、顧客接点であるコールセンターは顧客体験価値向上の起点となります。特にメーカーや通販業者などが属する顧客接点の少ない業界においては、コールセンターが非常に大きな役割を果たすといえるでしょう。顧客は、購入した製品の機能や使い方だけでなく、購入前の相談及びさまざまな利用シーンでの問い合わせを、コールセンターに投げかけてくるからです。ここで顧客から良い評価を得られれば、顧客体験価値は向上し、継続利用や再購買への「動機」に繋がるでしょう。つまり、コールセンターを通じた顧客体験のサポートが、リピーターや得意客の獲得に功を奏することになります。まさにコールセンターは、顧客接点が少ない業界における「顧客体験価値創造の源泉」となりうる場なのです。

また、コールセンターを含むCS(カスタマーサポート)部門には、顧客からだけではなく、全国各地の営業拠点・ショップからの情報も集積されます。現場からの声には、次代の新製品・サービス開発の起点となる有用な情報が含まれることは、想像に難くありません。特に大手メーカーでは、商品の取り扱い点数が多いため、日々これらの情報を蓄積していくだけでも膨大な量のナレッジが形成されるでしょう。こういったナレッジは、高度情報化社会を勝ち抜くための、貴重な情報資産です。

さらに、ナレッジをどう扱うか、という点も重要です。過去・現在を含む問い合わせ履歴に対して、迅速かつリアルタイム性を持った検索機能があれば、社内の関係部署へ素早い展開ができ、AHT(Average Handling Time=平均処理時間)の短縮が実現できるでしょう。また、きめ細かな対応が迅速に行えるようになれば、顧客満足度向上も達成しやすくなります。

2:顧客体験価値向上を図るために~大手カメラメーカー編~

実際に、顧客体験価値向上を目的とした大手カメラメーカーの取り組みをご紹介します。大手カメラメーカーでは、根強いファンの顧客満足度向上や、顧客体験価値の創出による新規ファン獲得のため、問い合わせ対応の品質向上が求められていました。しかし、これにはいくつかの業務的・システム的な課題が立ちはだかっていました。

● 業務的な課題
サポートの対象となる品目数が多い。主力製品のカメラ一つをとっても過去製品を含めると多岐に渡るため、問い合わせ内容も多種多様である。

● CRMシステムの課題
【拡張性の課題】
業務変更や成長にシステムが追い付けず、業務毎に管理項目をカスタマイズできない、システム連携の仕組み、インターフェイスに乏しいため、他システムとの連携、オムニチャネル化が見込めない。

【機能性やデータ不足の課題】
電話対応の内容をCRMの軸で分析に活用できない。問い合わせ対応の機能に乏しく、複数製品の問い合わせ処理を同時に行うなど、柔軟な対応が行えない。

【生産性の課題】
画面間遷移が煩雑で、検索性に乏しいため、オペレーションが非効率になり、ナレッジ管理が行き届かず、非生産的である。

既存CRMシステムの老朽化が進み、オムニチャネル化や全社を挙げてマーケティング活動の活性化を促進する中では、すでに限界があったといいます。

そこでカスタマーサポート業務に特化し、これらの課題を解決しうるような新たなCRMシステムの導入検討が開始され、CRM選定から要件定義を経て、リプレイスを決定しました。この試みにより下記項目の実現、将来的な「顧客体験価値向上」、「顧客満足度向上」を目指しました。

・コールセンター業務の効率化と生産性向上
・顧客情報の一元化と全体共有
自社製品の仕様検索にかかる時間及びAHT(通話時間および案件対応時間)の短縮
オペレータ対応の正確性向上と均一化
関連部門への情報共有速度、深度を向上させる
情報の蓄積や分析を容易にし、マーケティングへ展開する


3:新CRM導入による効果

新たなCRMへのリプレイス後、以下のような改善が確認されました。

・データを蓄積し、分析することで、ナレッジとして活用しようというセンター内で働くオペレーター自身の発想の転換に寄与した。

レポート機能の充実でデータ分析が容易になり、マーケティングに役立つ情報を得やすくなった。

標準機能として備わっていたFAQや、テンプレート、掲示板などを有効活用することによりオペレーターの対応の正確さが増した。

必要項目を追加・編集するなどセルフカスタマイズの機能が備わっていたため、簡単なカスタマイズであれば、センター現場で可能になりシステムメンテナンスの負担が減った。

一度のコール対応でクレーム、問い合わせ、修理依頼など、コールリーズンごとに履歴入力を分けられる画面構成であったため、生産性が向上した。

CTIとの連携や、過去問い合わせの検索速度が向上し、大幅に業務効率が改善した。

センター全体の対応の正確さが向上したことで、顧客・オペレーター双方のストレスが軽減

特にCRMリプレイスによる、CTI連携と検索機能の充実に力を入れたことが大きなポイントといえるでしょう。CTI連携については、着信ポップアップやコールログが自動的に案件履歴に紐づくようカスタマイズを実施。さらに検索機能は、20年以上にわたる問い合わせ履歴データ、顧客、商品等のマスターデータをナレッジとして活用するため、関連性を損なわずに新システムへ完全移行しつつ、過去の事例検索に活用できるデータベースを構築しました。

この新たなCRMの導入は、顧客満足度の向上と業務の効率化に大いに貢献したようです。

4:まとめ

今回は、大手カメラメーカーの事例をもとに、コールセンターでの顧客体験価値向上の取り組みと効果について触れてきました。

今後の競争を勝ち抜くには、老舗メーカーならではの強みである「ファン」の存在を最大限尊重しつつ、新しいファンの形成にも取り組むことが必須と言えます。これには、ロイヤルカスタマーを育成し、ブランド力に依存しない柔軟な考え方が必要とされるでしょう。しかし、老舗企業や大手企業であるがゆえに容易なことではなく、まさに全社をあげて「顧客体験価値の創造と向上」に取り組むことが求められます。

また、顧客体験価値の創造と向上のためには、使い勝手の良いシステムの導入が不可欠であることは、本稿の事例からも明らかです。しかしそれ以上に、

・システム導入そのものを目的化しないこと
・顧客対応部門他、各部門の課題と方針を明確にすること
業務的な課題解決、目標実現のために、どのようなシステムを採用すべきかを意識すること

が重要になってきます。

コールセンターにおける顧客体験価値の創造と向上は、システムの充実とそれを扱う人の意識が「核」となるわけです。当社ではこれらを担保しつつ、顧客体験価値向上の実現を支援するための、コンサルティング、システム構築、さらにはコールセンターの現場を担うアウトソーシングサービスの提供まで行っております。ご興味がありましたら、お気軽にお問い合わせください。

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【関連サイト】
inspirX(インスピーリ)
バーチャレクス・コンサルティングの長年にわたるコールセンター運営の経験から生まれた、マルチチャネル対応の顧客対応業務を支援するCRMソフトウェアです。

※1:カスタマー・エクスペリエンス(Customer Experience)とは顧客体験(価値)のこと。商品の購入やサービスを利用する過程で顧客が体験するさまざまな経験(合理的、感情的、感覚的、肉体的、精神的になど)を価値とするという考え方で、顧客にとってメリットがあったり感動的な体験をしてもらうことにより、企業やブランドに対して好意的な感情を持ってもらうことでロイヤリティを高め、企業への支持を継続してもらうことを目的としています。商品のコモディティ化が進み長期間にわたって差別化を維持することが困難となってきている現状において、市場での優位性を得るための施策としてカスタマー・エクスペリエンスが重要視されています。
(参照:https://webtan.impress.co.jp/e/2013/01/22/14362,https://www.paymentnavi.com/cardnavi/37396.html,
https://en.wikipedia.org/wiki/Customer_experience,https://www.sas.com/ja_jp/insights/marketing/customer-experience-management.html)

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